新型アストンマーティン・ヴァンキッシュは、フェラーリやランボルギーニと大きく異なる! 新世代のV12スーパーカーに迫る
扱い易いV12エンジン
5.2リッターの大排気量エンジンにふたつのターボチャージャーを組み合わせた新型ヴァンキッシュは最高出力835psと最大トルク1000Nmを発揮するが、どちらも公道を走れる量産モデルとしては世界最高レベルといって間違いない。345km/hの最高速度も、静止状態から100km/hまで加速するのに要する時間が3.3秒というのも、フェラーリやランボルギーニに迫る速さである。 エクステリアも、いかにもスポーツカー然としていて美しい。長いボンネットに続いてコンパクトなキャビンをやや後側に設けたプロポーションは、今にも前方に向かって疾走していきそうなスピード感を感じさせる。いっぽうで無駄な装飾は極力、排除し、丁寧に磨き込まれた曲面で構成されたボディーサイドは、彫刻のような美しさとエレガントさが同居していて、いつまで眺めていても見飽きることがない。 けれども、ヴァンキッシュの走りは、フェラーリやランボルギーニとは大きく異なっている。もちろん、速いことは速いのだけれど、それよりもっとゆったりとリラックスして、長距離をクルージングする方が得意なように感じられたのである。 例えば、乗り心地はとてもしなやかでゴツゴツとした印象を与えない。それでもコーナーなどでボディーが大きく傾くことがないのは、サスペンションに組み込まれた電子制御式ダンパーが必要に応じて減衰力を高め、足回りが腰砕けになるのを防いでくれるからだ。 エンジンは、市街地を普通に走っている範囲でいえば、最高出力が835psもあることが信じられないくらい扱い易いし、エンジン音も静か。そのいっぽうで、V12エンジンらしい滑らかさというか、独特の鼓動感がほのかに伝わってきて、とても心地いい。パワフルさだけでなく、上質さや快適さも追求したエンジンといっていいだろう。 ただし、高速道路などでその気になれば途方もないパワーを発揮。信じられないような速度域まで、またたく間に連れて行ってくれる。これぞ、高性能グランドツアラーの極みというべきものだ。 上質な素材に包まれたインテリアは、圧迫感を覚えさせることなく、適度なタイト感で身体を包み込んでくれる。そこを流れる時間も上質そのもの。贅沢な作りのV12エンジンも、しなやかな足回りも、そうした贅沢なひとときを乗員にもたらすことを目指して用意されたに違いない。 体力も品格も兼ね備えているのに、それをひけらかすことのない慎ましいヴァンキッシュの姿は、日ごろラグビーで鍛えた英国紳士のようでもある。
文・大谷達也 編集・稲垣邦康(GQ)