インスタにアップした「1枚の写真」で新入社員に「まさかのクビ宣告」…SNSで情報漏洩した23歳の意外な「その後」
会社が社員のSNS利用を禁止することはできるか
企業は原則、従業員のプライベートな活動に対して介入できないため、個人的にSNSに投稿するのを禁止することはできないが(憲法21条・表現の自由)、どんな情報でも自由に投稿可能ではない。 従業員として雇用された場合、労働契約や就業規則において「勤務時間内外にかかわらず、企業の名誉や信用を損ね、または不当に損害を与えるような行為を禁止」しており、上記の情報を投稿した場合、ケースによっては就業規則に明記があれば懲戒処分の対象とすることが可能であるし、債務不履行責任や不法行為に基づく損害賠償責任を負わせることが可能である。(民法415条、民法709条)。 <A上さんの場合> A上さんが会社が公表していない新製品のデザイン画と詳細な説明の画像をインスタに載せたことは企業秘密の漏洩になる。また、社内に展示されているインテリアや自分のデスクまわりなどの写真は企業秘密と言えるかどうかは甲社の判断にもよるが、いずれにせよ社内の様子を個人のSNSに載せるのは好ましくないといえる。 A上さんが企業秘密を漏洩したことについて懲戒処分を行う場合、就業規則にその旨の明記がされていることに加えて、懲戒処分の理由に合理性があることが必要である。具体的には就業規則やガイドラインを策定し、A上さんら従業員への周知や教育を十分に行っていたか、会社の損害程度(信用の失墜やブランド力の低下による業績の悪化、損害賠償など金銭的な損害など)などが論点になる。
A上さんのその後
A上さんが応接室を出た後、B谷部長は甲社長に尋ねた。 「本当にA上さんをクビにするつもりですか?」 甲社長は笑いながら答えた。 「ないない。A上君がこれ以上調子に乗ると困るからちょっとお灸をすえただけ。それにあのデザインはあくまでも素案。いくらデザインが良くても商品化するためには大幅な手直しが必要だから、完成したものはまったく別の形になるだろうね」 「じゃあ、乙社に知られても大丈夫なんですか?」 「今の段階ではね。しかし本来なら会議の様子を個人SNSに載せてもらうのは困る。A上君には会議を含む社内全体の撮影とインスタにUPしないよう、君から厳重に注意してほしい」 「わかりました。それとこれからこのようなことが起きないように、何か対策を打たないといけませんね。どうすればいいか早急に考えます」 「よろしく頼む」 応接室を出たB谷部長は、A上さんに甲社長の言葉をそのまま伝えた。A上さんはほっとした顔で 「ありがとうございます。これからも仕事がんばります」 と言い、深々と頭を下げた。
木村 政美(社会保険労務士)