緊急対談・西田亮介×安野貴博 なぜ「マスゴミ」は石丸・玉木・齋藤現象を予測できなかったのか…!
「中立性」を掲げる新聞・テレビの“怠慢”
安野:西田先生は、社会学者としてネット選挙や政治とメディアの関係について研究を続けてこられましたが、兵庫県知事選をどのように見ていますか。 西田:正直、ネットの影響が選挙結果にどうつながったかはまだわかりません。年代別の投票率の公開や大掛かりな調査をしないかぎりははっきりしないでしょう。 ただ候補者や政党がネットを駆使し情報発信を高度化してきたのに対して、それを報じるマスメディアが選挙報道のアップデートを怠ってきたのは確かです。公職選挙法や放送法には「選挙報道はこうしなくてはいけない」なんて書いていない。むしろ「評論の自由」を強調しています。ところが、テレビを制作する人は視聴者からのクレームなど“面倒なこと” は避けたいので各候補者の尺(放映時間)を揃えたり、抑制的な報道にするなど、従来の手法を踏襲しています。 安野:私も都知事選に出馬した際には、いろいろな新しい取り組みをしていたつもりなのですが、泡沫候補の扱いで、選挙期間中にはほとんど報じてもらえませんでした。ところが選挙が終わると、予想以上に票を取ったということでマスコミが殺到した。もちろん選挙後でも取り上げていただけるのは嬉しいのですが、「知っていたら安野に投票していたのに」などと言われると、歯がゆい気持ちになります。 一方で、ポスタージャックや演説妨害などの問題行動は選挙期間中もよく報道されました。目立ちたいだけの候補者は報じられることが目的なので、そうした報道は迷惑行動を助長しているとさえ思いました。
「ネット情報は信頼できない」という偏見
西田:新聞やテレビといったオールドメディアは、どういうニュースに価値があるのかという基準や制作過程を刷新、公開してこなかったため、明らかに時代に取り残されてしまっています。 そもそも選挙報道は中立的に、といったオールドメディアの「お約束」も通じなくなってきています。'23年、1世帯当たりの新聞の発行部数が0.49部となり、初めて0.5部を下回りました。要は新聞を購読している世帯はいまや少数派なのです。またNHK放送文化研究所の調査によれば、全世代の平均のテレビ視聴時間は約3時間ですが、70代は5時間見ていて、10代は1時間も見ていないといった偏りがある。オールドメディアの影響力はあきらかに低下しています。 安野:さらに言えば、「新聞やテレビなどのオールドメディアはちゃんとファクトチェックができていて、ネットには信頼できない情報がはびこっている」という論調にも違和感があります。 そういう主張は、ネットの世界が広大であることを見逃しています。ネット上にも、候補者討論会や本人インタビューなどの一次情報はたくさんある。もちろん平気でデマを流す人もいますが、それらを十把一絡げにして語るのは、あまりに雑な議論ではないかと。 西田:何がまともな情報源かという規範形成がまだできていないんですね。 アメリカでは'16年の大統領選のときから、ネット上に流れる情報を主要なマスメディアがリアルタイムでファクトチェックして報じています。日本のマスメディアもやろうと思えばできるはずなのに、そうしたことを怠ってきた。そのツケがいまになってまわってきている印象です。 後編記事『自民党や立憲民主党はもはやオワコン!?ネット選挙が可視化する政治家の「真の実力」』に続く。 「週刊現代」2024年12月7・14日合併号より
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