生成AIで日本人の研究者をかたり論文捏造か、収入目的の海外サイト「ハゲタカジャーナル」に掲載
国内の研究者をかたった偽の学術論文が、海外の学術誌サイトに掲載されていることがわかった。専門家の分析では、論文は生成AI(人工知能)で捏造(ねつぞう)された可能性がある。このサイトは掲載料収入を目的とした「ハゲタカジャーナル」と呼ばれる粗悪なものとみられ、専門家は「良質な学術誌と装うために、生成AIを悪用したのではないか」と指摘している。(長沢勇貴、桑原卓志) 【図解】一目でわかる…「ハゲタカジャーナル」サイトの仕組み
茨城県つくば市の国立研究開発法人「森林総合研究所」の藤井一至(かずみち)・主任研究員(43)は今月上旬、海外の学術誌サイトで、身に覚えがない自分名義の論文を2本見つけた。
藤井氏は土壌の研究を専門とし、2019年に著書が河合隼雄学芸賞に選ばれたことがある。偽論文は英文で、内容は藤井氏が過去に研究したことがあるテーマだったものの、論文に書かれた所属先は東京大や名古屋大の実在しない組織だったという。
藤井氏は今月中旬、サイト側にメールで論文の削除を求めたが、返事はなかった。しかし15日になって、論文2本のうち1本の著者名が、所属先はそのままで別の日本人名に変わった。所属先とされる大学の教員一覧にその日本人名はなく、藤井氏に連絡もないという。
このサイトは、海外の研究者がハゲタカジャーナルの可能性があるとしてネット上でリストを公開している約1300の学術誌サイトの一つ。多数の論文が掲載され、有料で投稿を呼びかけている。藤井氏以外の日本人とみられる研究者の名前や国内外の研究機関に所属しているとする著者の論文もあった。
藤井氏名義の偽論文が掲載された経緯は不明だが、実績のある研究者が論文を投稿する良質な学術誌と装うことで、別の研究者に新規投稿を促し、掲載料を集めようとした可能性がある。藤井氏は「論文が書かれている内容の事実関係に間違いはない。とはいえ、新規性もなく、私が書いたものと思われるのは心外だ。科学論文の信用性を傷つける許せない行為だ」と語った。