なぜ遠藤航は欧州で「世界のトップボランチ」と評されるのか? 国際コーチ会議が示した納得の見解<RS of the Year 2023>
遠藤航の選出に多くの指導者たちが納得の表情
ディサルボとヴォルフは壇上でパワーポイントを進め、今大会で重要な役割を見せたポジションと代表的な選手を紹介していく。ボランチが取り上げられ、4選手の写真がスクリーンに映し出される。 フランス代表のオーレリアン・チュアメニ、アルゼンチン代表のエンソ・フェルナンデス、イングランド代表のデクラン・ライス、そして日本代表の遠藤航だ。よく知る日本人選手が取り上げられたので、参席していた筆者は思わず声が出そうになった。落ち着いて周囲を見渡すと、よく知る指導者仲間だけではなく、多くの指導者たちが納得したように大きくうなづいていたのが印象的だ。 なぜこの4人がボランチにおけるトップレベルの選手として評価されているのか。 それは、彼らが果たしている役割が、チームの試合運びに極めて大きな影響を及ぼしているからだろう。 例えば、サッカーというゲームにおいてボールを奪い取り、「さあ、ここから攻撃へいくぞ!」という状況で、イメージ通りに素早く前線の選手にパスをしたり、ドリブルで持ち運んだりできるのか、あるいはそのルートを防がれてバックパスせざるをえなかったり、さらにはそこで取り返されてしまうのかというのは、ゲームの主導権を握るうえでとても大きな意味を持つ。 ゲームコントロールとはボールを持ってどうこうすることを意味するのではなく、ゲームにおいて不確実な要素が起こりにくいような準備ができているかが肝心だ。サッカーとはそもそも不確実な要素が多いスポーツだからこそ、自分たちがボールを失った後でもすぐにピンチになるようなことがなく、それどころかすぐまた自分たちでボールを取り返すことができる選手がいたら、他の選手は大きな信頼感をもっていろんなプレーにチャレンジができる。
「彼らはいつでもボールを奪い切れる局面を狙っている」
ヴォルフはこう話す。 「チュアメニ、エンソ、ライス、そして遠藤という選手は、前を向いてボールを運ぼうとしている選手がどこにいるかを瞬時に見つけ出し、その選手が自由に攻撃のスイッチを入れるのを妨げるだけではなく、そこでボールを奪い返すスキルが極めて高い。 ボール奪取というところに注目すると、彼らは常に足を止めずに、アタックすることを躊躇しない。多くの選手はそこでかわされたり、外されたりするリスクを考えて、距離を取ったり、ミスを犯さないような選択肢を決断するが、彼らはいつでもボールを奪い切れる局面を狙っている。不用意に飛び込んだりはしないが、スピードを落とすことなく、ボールを動かした先を予見して体をぶつけて、一気に奪い取りに行くので、相手選手はかわし切ることも難しい」 ヴォルフはライスのプレーを例に、映像を見せてくれた。ボールを保持しているチームのDFが視線の先にいるフリーになっているはずの選手へ安心してパスを送ろうとする。だが、それこそが罠だ。あえて自分がアタックしようとしている選手との距離を取り、パスが出た瞬間に瞬足ダッシュで距離を詰め切ってしまう。 背中を向けてボールを受けると視野の確保が難しいというのは、少しサッカー経験のある人なら聞いたことがある話だと思うが、これを試合の中でやり続けるのは簡単ではない。トップレベルのプロ選手でもどこかで背中を向けたままパスを要求し、そこでボールをコントロールしようという局面が必ず出てきてしまう。自分の背中裏で何が起こっているのかを完全に把握するのは、誰であっても難しいし、突然死角から狡猾に襲われたらさすがに対処できない。 遠藤もそうだ。相手を油断させ背後からすすっと忍び寄るタイミングの取り方が本当にうまい。