大島、再びセンバツへ 野球研究の第一人者が奄美で伝えたコト
21世紀枠での出場後にブランクがあるとなかなか甲子園に戻れない。そんな傾向を奄美大島の大島(鹿児島)がはね返した。初出場から8年ぶりに一般選考で第94回選抜高校野球大会の切符を勝ち取った。その裏には、野球研究の第一人者の教えがあった。 【過去には小芝風花さんも】歴代センバツ応援イメージキャラ 2021年秋の鹿児島大会で離島勢初の優勝を果たし、九州大会では準々決勝を初めて突破すると、一気に準優勝まで駆け上がった。14年4月に赴任し、16年7月に就任した塗木(ぬるき)哲哉監督(54)に躍進の理由を聞くと、いくつかある要因の中に、こんな話があった。「筑波大の川村先生が毎年、指導者講習会を開いてくださり、それが地域の野球の質を上げるのにつながったと思います」 川村先生とは、筑波大准教授で筑波大野球部監督の川村卓(たかし)さん(51)。野球の動作解析に詳しい野球コーチング論研究の第一人者だ。プロ野球で各球団の投手コーチを歴任し、現在は日本代表を指導する吉井理人投手コーチ(56)やプロ野球・DeNAの仁志敏久・2軍監督(50)も、川村さんの研究室で教えを受けた。 筑波大大学院で学んだ塗木監督が縁をたどって川村さんに依頼し、15年から5年間、奄美大島で指導者講習会を開催。会場には小中高の学校指導者以外に、「お父さんコーチ」と呼ばれるチームの外部指導者も招かれた。塗木監督は「公立学校の指導者は異動もあって指導のつながりが持てない面があります。奄美の指導の根幹を支えているのは、野球を趣味で続ける大人たち。そういう人たちが新しい情報を得て、悩みが解決しました」と語る。 筑波大大学院生らとともに全国で指導者講習会や野球教室を開催している川村さんが伝えるのは「育成」の重要性だ。「勝ちばかりを目指してはだめです。例えば、少年野球は力だけでできるので、身長150センチを超す大きな子ばかりで試合をすれば勝てるかもしれません。でも、中学になって身長が逆転することも多い。その時には、試合に出られなかった子たちは『つまらなかった』と野球から離れてしまうかもしれない。これは野球界の損失です、と話します」 川村さんは講習会を実施した5年間で、奄美大島の指導者の変化を感じた。1年目こそ反応は薄かったが、次第に受講者の質問内容も変わっていった。「身長差が激しいが、一緒の教え方でいいのだろうか」など育成を意識したものが増え、「野球がうまい、下手だけで捉えないようになったのが一番です」と指摘する。 新型コロナウイルスの影響がなければ、20、21年も講習会を開く予定だったという川村さんは「一般選考での出場は、奄美大島の方々が積み上げたものの成果で、不思議でも何でもない。普段の野球ができる準備をすれば勝てると思います」とエールを送る。「野球博士」のお墨付きを得た南の島のチームが甲子園初勝利を目指す。【吉見裕都】 ◇全31試合をライブ中継 公式サイト「センバツLIVE!」(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2022)では大会期間中、全31試合を動画中継します。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/hsb_spring/)でも展開します。