急増するビットコインの大口取引、野村のレーザーDが見た世界の激戦区──「マーケットの本格化はこれからだ」【2025年始特集】
欧州、中東、アジアで増える新規の法人顧客
工藤氏は、「2021年と比べながら2024年を振り返ると、(USDTとUSDCの)ステーブルコインの急成長は機関投資家顧客からの引き合いを見ていても実感する」と述べる。中東にあるレーザー・デジタルのトレーディングデスクには、既存の法人顧客に加えて新規の顧客からの引き合いが入る。 新規の法人が暗号資産取引を始めるとき、ステーブルコインを取得して市場参入するケースが多い。ステーブルコインは、暗号資産の売買で利用する決済通貨や、暗号資産を売却した後に換金する「待機資金」として広く利用されるようになった。 工藤氏は、「増加傾向にある新規の法人顧客は、欧州や中東、アジアなど地理的には分散している」と言う。「法人顧客も今ではグローバル化している。例えば、ドバイにオフィスを構えている機関投資家は多いが、必ずしもその全てがドバイに本社を置く企業ではない。伝統的金融機関がそうであったように、欧米の金融機関の多くはアブダビにオフィスを構えてきた」 レーザー・デジタルは昨年6月、アブダビの金融当局から「FSP」と呼ばれるライセンスを取得した。FSPは「Financial Services Permission(金融サービス許可証)」の略で、アブダビが国際金融地区に指定している「アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)」のエリア内で、従来の金融商品と暗号資産を含むデジタル資産の運用事業や、ブローカー事業を行うことのできるライセンスのことだ。 「アラブ首長国連邦(UAE)が非常にオープンな政策をとっていることもあり、数々の(暗号資産)プレイヤーがアブダビやドバイに拠点を開設するなど、動きは一層活発となった」(工藤氏)
日本とグローバル市場のギャップ
一方の日本では、国内の資産運用会社がビットコインETFの開発を模索しているものの、投資信託に関連する厳しい法律などが足かせとなり、米国で昨年に起きた「ビットコインETFブーム」は当面の間、起こる気配はない。 また、霞が関や永田町では、暗号資産所得に対する税制の議論がいまだに続いている状態だ。日本の法律では暗号資産所得は雑所得となり、税率は最大で55%の総合課税。一方、ETFを含む従来の金融資産の売買から得られるリターンは分離課税となり、一律20%だ。 金融庁は昨年、暗号資産を資金決済法で規制している今の仕組みが適切かどうかを検証するための議論を始めた。ビットコインは「決済」を目的とする手段ではなく、むしろ法人や個人が「金融商品」として取引する「資産」ではないか、といったことが議論されているという。 税制を改正する際の日本の従来プロセスを鑑みると、暗号資産所得に対する税制が突然改正されるということは考えにくい。日本の政治家と官僚が議論を続けているなか、暗号資産を筆頭にデジタル資産のグローバル市場は、変化・拡大を続けている。 工藤氏は、「レーザー・デジタルにおいても当然、グローバル事業の拡張の方が圧倒的に速い」と述べた上で、レーザー・デジタル・ジャパンが行っている業務は主にグローバル事業としての支援だと説明する。 関連記事:ビットコイン規制はどう変わる──動き出した金融庁、ザワつく金融界と暗号資産業界 同時に、日本でのビジネス機会の探索を進めていると、工藤氏は話す。 「(暗号資産)ETFやステーブルコインに関する議論は続いている。現時点で、多くの日本の機関投資家にとって、暗号資産を組み入れた資産運用については『検討中』ということになる。(市場が動くまでには)時間はかかるだろう。しかし次の2年,3年で、日本の市場がまったく形成されないということにはならないだろう」 昨年11月、首相の諮問機関にあたる金融審議会は作業部会を開き、ステーブルコインについての議論を行った。世界で流通量を増やしているUSDTやUSDCのように、日本円連動型ステーブルコインについては、裏付け資産として流動性の高い短期国債を認める案が浮上した。 同日に開示された作業部会の資料によると、金融庁は短期国債(満期が3カ月のもの、あるいは満期3カ月超の日本国債であっても、取得時点における残存期間が3カ月以内のもの)や、定額預金を裏付け資産に認める案を示している。 野村とレーザー・デジタルが昨年共同で行ったアンケート調査によると、回答した国内の機関投資家のうち6割以上が、暗号資産を分散投資の機会と考えており、実際に投資する場合、望ましい配分比率として運用残高の2%~5%を想定しているという。 しかし、工藤氏は「実際に国内の機関投資家が、相応の大口取引を日常的に行えるようになるには、市場環境が整備されることが条件となる。やはり、相当の時間がかかるのではないだろうか」とした上で、「世界を見渡すと米国中心に急速に市場環境が変わることが想定されるため、日本も柔軟かつ迅速に変わっていくことを期待したい」と述べた。