僕が面接で「超優秀な学生」を見抜けなかった後悔 ある就活生が教えてくれた「社会人として最強の能力」
■もっとも大切なのは「仲間を作る」力 しかし、翌年の4月、その彼が会社にやってきた。すぐ隣の営業部で採用されたのだ。アメフト部出身で、マッチョな体格に全身こんがり焼けた肌、にこやかな顔立ちだが鋭い目つきが印象的だった。 彼の仕事は、お客さんである銀行にさまざまな金融商品を売ることだった。金融商品を組成したり値付けしたりするのが僕らトレーダーの仕事だったため、彼と関わることが多かった。 営業マンは商品に詳しくなければいけないが、彼は飲み込みが遅かった。特に僕が扱うデリバティブ商品は複雑で、なかなか理解してもらえなかった。「100%の確率で6を出せます」という自信は、やはり口先だけのものだったのか。
そんなある日、彼のお客さんであるメガバンクと大きな取引をすることになった。しかし、彼は泣きそうな声で「自信ないっす」と言う。 さて、困った。 ミスがあれば、お客さんが怒るかもしれないし、取引で大損するかもしれない。心配になった僕は、彼とお客さんの通話に乗って、そのやりとりを聞くことにした。 そこで、ようやく理解したのだ。彼が「必ず6を出せる」と言っていた本当の意味が。 電話の向こうのお客さんも彼とのやり取りに不安を感じていた。そして、こんな提案をしてきた。
「〇〇君、取引内容わかる? 難しそうなら僕がトレーダーと話そうか?」 驚いた。通常あり得ない会話だ。 相手はメガバンクの担当者。半沢直樹のような厳しい世界だ。ところが、そのお客さんは直接トレーダーと話そうと気遣ってくれている。それだけ彼が愛されていたのだ。よく考えてみると僕も同じだった。僕も彼を気遣って電話に出ていた。 いつもの僕なら、物分かりの悪い人には厳しい。彼の上司に文句を言って、担当を変えさせたかもしれない。
だけどそうはならなかったのは、彼を応援したかったからだ。彼は、仕事熱心で、誠実で、魅力的な人間だった。僕やお客さんがサポートしたように、これまでも彼は周りを巻き込んで成功してきた。その意味で、彼のサイコロは全面6だった。 最近、彼と社会学者の宮台真司氏と3人で鼎談したことがあった。そのとき、宮台さんは彼のそのエピソードを絶賛された。 「英語ができないなら、英語ができる仲間がいればいいんです」 仲間を作る力こそが、生きていく上で大事な能力だとおっしゃっていた。