10年後の波に乗るための、いま知るべき先進テクノロジー10選 ガートナー発表
ガートナージャパンは、「Gartner IT Symposium/Xpo 2024」を開催。初日の記者説明会では、同社のバイス プレジデント アナリストである池田武史氏が登壇し、毎年発表する「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の2025年版について解説した。 【もっと写真を見る】
ガートナージャパンが、2024年10月28日から30日まで「Gartner IT Symposium/Xpo 2024」を開催している。初日の記者説明会では、同社のバイス プレジデント アナリストである池田武史氏が登壇し、今後注目すべきテクノロジーを選出する「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の2025年版を解説した。 今回の全体テーマは「責任あるイノベーションで未来を形成する(Shape the Future With Responsible Innovation)」だ。ここ1年、生成AIをはじめとする新しいテクノロジーによって多くの機会がもたらされた一方で、倫理的な課題にも直面している。そのためガートナーが今回選出した技術トレンドは、「単純にテクノロジーを担ぐのではなく、“責任を持った”サービス・意思決定を担うためのテクノロジー」だと池田氏は説明する。 加えて、これらのトレンドは今後の1、2年だけではなく、5年から10年、場合によっては10年以上にわたって、世界中の組織リーダーにとって重要なテクノロジーになるという。以下、3つの領域に分けて、10個のトレンドについて紹介する(カッコ内の数字は、市場に影響を及ぼし始める時期の見通し)。 ■AIの最重要課題とリスク ・エージェント型AI(2~3年後) ・AIガバナンス・プラットフォーム(2~4年後) ・偽情報セキュリティ(1~3年後) ■コンピューティングのニュー・フロンティア ・ポスト量子暗号(2~3年後) ・環境に溶け込むインテリジェンス(3~7年後) ・エネルギー効率の高いコンピューティング(3~5年後) ・ハイブリッドなコンピューティング・パラダイム(3~10年後) ■人間とマシンの相乗効果 ・空間コンピューティング(1~3年後) ・多機能型スマート・ロボット(3~10年後) ・神経系の拡張(10年以上後) AIの最重要課題とリスクに関するテクノロジートレンド まずは、脚光を浴び続けているAIにおける、最重要課題とリスクに関する3つのトレンドだ。 ひとつ目は、「エージェント型AI(Agentic AI)」。 エージェント型AIとは、目標を達成するために自律的に(人間の指示なしで)計画を策定して、行動を起こすAIである。人間の作業負荷を軽減して、仕事を補強できる「仮想労働力」になることが期待される。「コンピュータができた頃から“人間の良い相棒”になってくれることを期待して試行錯誤が続いたが、ようやく多目的で色々なことができる可能性が出てきた」(池田氏)。 ガートナーでは、2028年までに、日常業務における意思決定の少なくとも15%が、エージェント型AIによって自律的に下されるようになると予測する。 2つ目は、「AIガバナンス・プラットフォーム(AI Governance Platform)」。 昨年版でトレンドに挙げられていた「AI TRiSM(AIの信頼性・リスク・セキュリティ管理)」フレームワークの一部であり、AIシステムにおける法律・倫理・運用面でのパフォーマンスを管理するための仕組みを提供する。“責任あるAI利用”のためのポリシーを策定・管理・実施する能力、AIがどのように機能するかを説明する能力、透明性を確保する能力を備えている。 3つ目は、「偽情報セキュリティ(Disinformation Security)」。 情報の信頼性を見極め、真実かどうかを評価し、拡散を追跡することを目的とする、新たなセキュリティのテクノロジーである。「今でもSNSなどでさまざまな情報が飛び交っているが、生成AIを使うことで悪意のある情報が、巧みに流通するリスクが上がっている」と池田氏。 ガートナーでは、2028年までに、企業の50%が偽情報セキュリティ対応のユースケースに特化したプロダクトやサービス、機能の採用を始めるとみている。 コンピューティングのニュー・フロンティアに関するテクノロジートレンド 続いては、コンピューティングやストレージ、ネットワークなど、DXを支えるテクノロジー全般における4つのトレンドだ。 まずは「ポスト量子暗号(Postquantum Cryptography)」。 ポスト量子暗号は、“量子コンピューティングによる解読リスク”に耐えうるように設計された暗号アルゴリズムである。量子コンピューティング技術の進化に伴い、「現状使われている公開鍵暗号や非対称暗号が簡単に解読できしまう将来が近い」(池田氏)と言われているため、機密情報や社外秘情報に対する保護を強化する準備を始めなければいけないという。 5つ目は、「環境に溶け込むインテリジェンス(Ambient Invisible Intelligence)」。 一時期うたわれた「ユビキタスコンピューティング」のように、超低コストの小型無線デバイスを使い、リアルタイムかつ大規模なタグ付けや追跡、センシング、インテリジェンスなどを実現する。池田氏は、「5年後に10セント(約15円)のセンシングデバイスが登場するのを見越して、20セントのタイミングからどう活用できるかを考え始めなければいけない」と指摘する。 6つ目は、「エネルギー効率の高いコンピューティング(Energy-Efficient computing)」。 AI処理をはじめとして、ITにおけるエネルギー消費量が増加の一途を続ける中で、二酸化炭素排出量を削減する、エネルギー効率の高いコンピューティングの手法・手段が必須になっていく。「もちろん、エネルギーを効率的に使う方法を編み出すのもひとつだが、半導体を使ったコンピューティングばかりに頼らず、その10倍、100倍のコスト効果が期待できる新たなテクノロジーが求められる」と池田氏。 ガートナーでは、2020年代後半から、光学やニューロモルフィック(人間の脳の働きを模した電子回路)、新型アクセラレータといった、消費エネルギーの少ないコンピューティング・テクノロジーが登場すると予想している。 7つ目は、「ハイブリッドなコンピューティング・パラダイム(Hybrid Computing)」 。 上述したエネルギー効率の高いコンピューティングを実装するためのテクノロジー。現状のコンピューターシステムが即座に入れ替わることはなく、それと組み合わせる形で、適材適所かつハイブリッドに新しいコンピューティングを取り入れていくことになる。「メインフレームからの移行と同様に、バランスを取りながら進んでいく。そのためのオーケストレーションや運用のツールなどが必要になってくる」(池田氏)。 人間とマシンの相乗効果に関するテクノロジートレンド 最後は、生成AIで関係がより深まった、人間とマシンの「相乗効果」に関する3つのトレンドだ。 8つ目となるのが、「空間コンピューティング(Spatial Computing)」だ。 拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などのテクノロジーによって物理世界をデジタルで強化するテクノロジー。リアルタイムな位置情報や3次元情報に、その状態や周辺情報などの付加情報が統合されるコンピューティング・パラダイムを指す。 「(前述した)環境に溶け込むインテリジェンスが小さな電力で状況を把握していく一方、空間コンピューティングは大きな構造の枠組みで必要な情報を得られる」(池田氏)。3D空間でデジタルコンテンツとやりとりができるようになり、没入感の高い直感的なエクスペリエンスが実現される。 9つ目は、「多機能型スマート・ロボット(Polyfunctional Robots)」。 複数のタスクをこなす多機能型スマート・ロボットが、単一のタスクを繰り返すタスク特化型ロボットに取って代わるという。「頭脳もよりインテリジェンスになり、LLMに対して行動(Action)を学習するLAM(Large Action Model)が登場しているが、より多様な行動が取れるようになる」と池田氏。 ガートナーでは、2030年までに、人間の80%がスマート・ロボットと日常的に関わるようになると予測する。 最後は、「神経系の拡張(Neurological Enhancement)」。 脳の活動を読み取り、解読して、人間の認知能力を向上させるテクノロジー。「ここに来てアメリカなどで投資が盛んで、工学的な観点でビジネスにしていくための取り組みが進んでいる。ただし、これは10年以上先のトレンドになる」(池田氏)。神経系の拡張は、AIに適応するための人間のスキルを向上させること、次世代のマーケティング、人間のパフォーマンスの根本的な向上という3つの領域で大きな可能性を秘めているという。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp