【ラグビー】苦しむ名門がドローで未勝利のまま。背景は。
全敗対決にあっては豪華な顔合わせ。旧トップリーグ時代に優勝争いをしていた「サントリー」と「トヨタ」が1月4日、発足4シーズン目となるジャパンラグビーリーグワン1部の第3節で今季初白星を争った。 結果は30-30。どちらの陣営も、勝機を逃したと捉えていた。 かつてニュージーランド代表を率いていたトヨタヴェルブリッツのスティーブ・ハンセン ヘッドコーチは、独特なフレーズに悔しさをにじませた。 「まるできょうだいとキスをしているようだ。愛はあるが、それは自分たちの求めているものではない。…そういった試合の総評ができる」 向こうの勤勉さを前に自軍の反則が重なった展開については、ややシニカルに述べた。 「80分を通して一貫したレフリングがあり、それに対して我々がスキルを持って対処する。…そのようにできれば、問題はない」 ヴェルブリッツとしては、終盤の追い上げでタイスコアに持ち込んだ。移籍初年度となるSOの松田力也は、それでも口惜しそうだった。 好パスで何度もチャンスメイクも味方の逸機に泣き、自身もこの日最後のコンバージョンゴールを外していた。 「勝てるゲーム落としたなと思うし、それに繋がる僕のプレーもあったし、責任を感じています。いいところにボールを運べていた。それでトライを獲れたところも、獲れないところもあって…。僕がいま(試合直後)パッと思いつくだけで2つは『獲れたな…』というところがあります。それがスコアになっていれば展開が変わった。(組織で)同じ画は見られている。あとは、精度の部分です」 会場の味の素スタジアムが本拠地の東京サントリーサンゴリアスにあっては、小野晃征が「悔しい」と一言。元日本代表SOでOBでもある新ヘッドコーチは、戦術の微修正、ベテランの先発起用で攻めの多彩化に成功した。 それだけに複数の得点機を逃したのが悔やまれたが、指揮官はむしろ、守りで「(点の)獲られ方が悪」かったのを反省材料とした。 ビッグゲインをきっかけに4トライを喫したからだ。特に30-25と5点リードで迎えた37分には、敵陣深い位置での相手ボールスクラムからの怒涛の攻めで同点にされた。 防御網が機能するシーンもあっただけに、この午後2度のジャッカルで光ったHOの堀越康介主将はこう指摘する。 「前半の守りでターンオーバーができたり、ペナルティーを誘えたり…。僕たちは、フェーズを重ねたらいいディフェンスができると自信があるのですが、ストラクチャー(決まった形)からビッグゲインを…。そこは、トヨタさんのアタックが素晴らしかったのかなと思います」 同点となってからの終盤戦は、ロスタイムを含め7分ほどあった。 ヴェルブリッツは44分、自陣10メートルエリア左中間でペナルティーキックをもらった。NO8の姫野和樹主将は、FBのティアーン・ファルコンの「挑戦させてくれ」との要望を受け長距離のゴールを委ねた。 これが失敗に終わると、この午後2枚目のイエローカードで数的不利のサンゴリアスが最後の連続攻撃。ヴェルブリッツの13個目の反則もあり中盤まで侵入も、圧力下での落球に終わった。 今度の一戦を象徴するような結末を経て、サンゴリアスの元主将でSHの流大は前を向く。両軍の心境を代弁するかのようだった。 「これでシーズンが終わりだったら何とも言えない感情になると思うんですけど、優勝がなくなったわけでも(上位6傑による)プレーオフに行けないわけでも何でもない。本当に前に進むしかないです」 今季は昇格2年目の三重ホンダヒートが開幕2連勝。下馬評が参考になりづらくなっている。集団のその時々の進歩の度合い、もしくは底力が、各ゲームでの優劣を左右しそうだ。 (文:向 風見也)