なぜ積水ハウスは「地面師たち」にだまされたのか? 不動産詐欺にだまされないための対策も
「地面師」とは、不動産を不正に売却し、代金をだまし取る犯罪者集団である。偽の書類や複雑な権利関係を悪用し、巧妙に被害者を欺く。2017年、積水ハウスが五反田のマンション用地で地面師たちにだまされ、不動産業界に衝撃を与えた。なぜ大手デベロッパーが被害に遭ったのか、また、一般の土地取引でも起こりうる地面師被害のリスクと、その対策についても解説する。 地面師事件の跡地!「アトラスタワー五反田」のメリットとデメリット 目次地面師とはデベロッパーの不動産土地取得の流れと危機管理なぜ積水ハウスはだまされたのか地面師にだまされないための対策は?まとめ
地面師とは
地面師とは、不動産を不正に売却し、その売却代金をだまし取る犯罪者もしくは犯罪集団を指す。その手口は巧妙で、さまざまなパターンがある。 例えば、実在しない土地や、所有権のない土地をあたかも自分のものであるかのように偽装し、売買契約を結ぶもの。このケースにおいては土地の権利関係を故意に複雑化させることで、買い主がその実態を把握できないようにする。身分証明書や登記書類を偽造して不動産取引の手続きを悪用し、架空の取引によって金銭をだまし取る手口が多い。 ちなみに地面師は昭和の頃から存在しており、過去にはさまざまな対策が講じられてきた。しかし、依然として被害が発生している。関係省庁や法務局による不動産登記法の改正・登記制度の見直し、不動産協会や司法書士会も対策を取っているが、地面師の手口は、法整備や情報公開が進んでも巧妙化・多様化の一途をたどっている。 2017年に発生した積水ハウス地面師詐欺事件では55億円の被害額になり、大きな騒ぎとなったが、詐欺は大手デベロッパーに限らず不動産会社や個人といった誰でもが被害者になりうる。
デベロッパーの不動産土地取得の流れと危機管理
積水ハウスのような住宅メーカー・マンションデベロッパーは、マンション分譲を進める際にまずそのための土地を取得しなければならない。デベロッパーの不動産土地取得は、事業の成功を左右する重要なプロセスとなる。土地の種類や性質、デベロッパーによって流れは異なるが、大まかには以下のような流れになる。 1.情報入手……不動産情報の入手。仲介業者や入札情報など 2.現地確認……立地条件、周辺環境、近隣状況、将来的な開発計画などを詳細に調査 3.役調……法務局や役所で用途地域や接道義務、建ぺい・容積率などを確認。公図・図面などを取得して、土地・道路に対する法令上の制限、所有権などを調査 4.権利関係……登記上に示された所有者の他、抵当権など売買にかかわる権利関係の確認 5.ボリュームチェック……建設可能な高さや面積などをチェック、収益性を評価 6.指値……土地の購入費用、開発費用、販売価格などを算定し、坪当たり単価と総額の提示 7.売渡契約……書面上で売買の約束を交わし、手付金(通常売買代金総額の10%)支払い 8.境界確定……官民・民民の隣地境界を画定、ケースにより試掘などで土壌状況・土地に関する隠れた瑕疵(かし)の確認 9.決済、所有権移転……残代金の支払いと登記書類の確認、司法書士により法務局提出 地面師たちが関わる段階は、主に権利関係と売渡契約、そして最後の決済だ。権利関係に不自然な点はないか、などチェックはいくつかあるものの、メインは「本人確認」となる。 不動産売買における「本人確認」とは? 「本人確認」とは、売買しようとしている土地の所有者が当人であるかどうかを確認するプロセスだ。さらに、売買がその本人の意思であるかどうかもチェックする。 基本的に買い主(デベロッパー)が売り主(所有者)に直接会う機会は、お金が動く契約時と決済時(取引内容によっては契約前に意思確認として面談する)となる。買い主側の司法書士が免許証やパスポートをチェックし、いくつか口頭でのプライベートな質問を売り主へ投げかけ、本人であることを確認する。 この本人確認は、一般的に司法書士の仕事とされているが、司法書士にはそれなりのプレッシャーがかかる。というのは、本人と納得できるまで業務を進行してはいけないという職務と、売り主の機嫌を損ねて話をひっくり返されるリスクとで葛藤が生じるためだ。 次で、詳しく見ていく。