すすきのの老舗ジンギスカン店が東京初出店 優秀な外国人スタッフが店長
日本人スタッフに、外国人スタッフへの意識を変えさせた留学生
金氏:ある外国人留学生との出会いだ。13年前、ベトナムからの留学生でヒューさんという人から「働きたい」と求人誌を見て電話があったが、すぐに採用とはならなかった。というのも、当時は多くの日本人のスタッフが働いており、人手も足りていた。それに日本人スタッフは外国人スタッフと一緒に働くことに慣れておらず、「何か怖そう」という偏見もあった。 残念ながら前例がない、最初はそれが現実だ。そこからどうなったのか。 金氏:雇うか雇わないか、家族の間で議論になったが、社長の「自分たちも外国人(韓国人)でしょ。一生懸命働いてくれるなら、雇っていいんじゃない」という鶴の一声で実現した。留学生は収入が少なく、大変な生活をしていることを気にしていたそうだ。 すばらしい考え方だ。 金氏:採用したヒューさんは頑張り屋で、重い荷物なども率先して自分から持つような人だった。さらにフレンドリーな性格で、自ら日本人スタッフとコミュニケーションを取り、信頼を勝ち得ていった。日本語もすぐに上達し、年長者のスタッフからは息子や孫のようにかわいがられていた。 外国人スタッフも日本人スタッフと同じ時給だったこともあり、ヒューさんの周りにいる誠実なベトナム人留学生たちから「私も働きたい」と連絡をもらうことが増え、どんどん採用人数が増えていった。 最終的に、何人くらいまで増えたのか。 金氏:23人ほど採用した。友人や先輩からの紹介ということもあり、みんな一生懸命働いてくれた。ヒューさんが彼らに仕事を教えるリーダー的な役割を担ってくれたため、特に困ることもなかった。 ベトナム人のコミュニティーにもなっていたのだろう。当時、留学生も含め、アルバイトやパートは何人くらい働いていたのか。 金氏:コロナ前は全店舗で朝の5時まで営業していたため、ピーク時は100人ほど働いていた。
外国人スタッフも実力次第で積極的に抜てき
今はベトナム人だけでなく、ネパール人も積極的に採用していると聞いた。 金氏: 2年半くらい前、ベトナム人スタッフの紹介で、ネパール人留学生のマニスさんが働き始めた。ネパール人もベトナム人のように紹介を介してスタッフが増えていき、現在、ネパール人のアルバイトだけで40人は働いている。 マニスさんも勤勉で、今はネパール人を束ねるリーダーを務めている。そこで、学校が夏休みの間だけ東京のウィークリーマンションに住んでもらい、上野御徒町店で働くネパール人の指導に当たってもらっている。 それだけでなく、マニスさんはネパール人のアルバイト全員が入るグループLINEを管理している。急きょ欠勤が出たとき、代わりに出勤できる人がいないか、そのグループで聞くなど、シフトの調整やフォローを担当している。 マニスさんのように活躍する留学生に対しては、いくつかの条件をクリアしたら時給をアップするなど、しっかり評価する仕組みもつくった。 成吉思汗だるま 上野御徒町店の店長は、ベトナム人だとか。どういう経緯だったのか。 金氏:もともとは、札幌のだるまでベトナム人を束ねるリーダーとして働いていたトゥアンさんという人だ。独立してベトナム料理店を開店し、6年間ほど切り盛りしていたが閉店した。そのタイミングで、私から「戻って来ないか」と声をかけた。自身の力で店舗運営をしていたということもあり、店長として抜てきした。 今後の展望を聞かせてほしい。 金氏:まずは上野御徒町店をしっかり軌道にのせたい。8月26日から営業時間が変更になった。平日・週末とも午後4時~翌日の深夜2時まで(ラストオーダーは深夜1時半)だ。これからは深夜客も取り込んでいきたい。なお、客足の様子を見て、今後も変更する可能性はある。 そして成吉思汗だるま 上野御徒町店の人気に火が付き、行列で入りきれなくなったら、すすきののだるまと同様に、近い場所(御徒町周辺)で2号店、3号店とどんどん出せたらうれしい。ただ、経営方針は家族会議で決めているので、他の家族の意見が採用されて、御徒町周辺ではなく、いきなり渋谷店や新宿店がオープンするかもしれない。 ●取材を終えて だるまが採用した外国人リーダー制。留学生の中から、責任感があり、リーダーシップのある人をリーダーに任命する。文化や価値観が違う外国人スタッフは、仕事やその心構えは先に働いている同じ国の人から教えてもらったほうが間違いなく身に付くだろう。 留学生はまだ日本語勉強中で、日本語でメールやLINEで送っても完璧に全部が伝わらないときがある。ならばバイトリーダーに、彼らの母国語であるベトナム語やネパール語で一斉に送ってもらえれば、バイトの欠員の穴埋めなどがすぐに見つかるので大いに助かるはずだ。 また外国人リーダーにはその役割を担ってもらう分、バイト料とは別に手当も出るので、モチベーションも上がるだろう。しかし、その根本には金さんはじめ、運営側が外国人スタッフを家族のように大切にして、広い心と優しさをもって接するホスピタリティーがあることを忘れてはいけない。 働きがいがあり、働きやすい職場であることも大切だ。だから日本人スタッフも多く、定着率も高い。アルバイトの人材確保で苦労している店にとって、だるまのやり方は1つのヒントになるかもしれない。 余談だが、金さんからある話を聞いた。札幌にあるだるま6・4店に遅番で入っている70歳の名物スタッフのかおりさんは、たまたま別店舗にヘルプで行ったとき、若い頃に離婚した後、30年間会っていなかった息子と偶然再会した。 「え、お母さん?」と声かけられ、お互いを認識。連絡先を交換して、24年の正月に、息子が嫁と孫を連れて札幌宅まで遊びに来てくれたとか。かおりさんは「だるまで働いていて本当によかった!」と話していた。それを聞いていたスタッフは号泣。飲食店にはドラマチックな話がある。 札幌 ジンギスカン だるま https://sapporo-jingisukan.info/ 炎天下で長時間入店待ちをさせるのは心苦しいとのことで、上野御徒町店では8月2日から整理券システムを導入した。毎日16時から受付機で番号券を発券し、そこに印刷されたQRコードを読み取れば、待ち状況を確認できる。入店順番2組前になれば、メールやLINEまたは電話で知らせてくれる。番号券は一定数しか発券できないので、入手できなかった人は、午後9時ごろに来店すれば少し待つかもしれないが、入店できる可能性はあるとのことだ。整理券システムは変更される場合があるので、公式サイトで確認してほしい。
SHiGE