放置林が洪水を引き起こす可能性も…間伐などの育林作業が「防災対策」になるワケ[FRaU]
Q.人工林に生物多様性を蘇らせるにはどうすればよい? A.針葉樹林に広葉樹を交じえて、「育成複層林」を目指すことです。 成熟した森林では、さまざまな木、植物が入り交じって多層構造が生まれています。かつての日本では「択伐」によって、林業従事者が森林の木々の一本一本を丁寧に管理し、さまざまな樹種、樹齢の木々が育つ森林を造っていたのですが、高い管理技術が求められるので、現在ではほぼ行われていません。 代わりに主流となったのは、単一の樹木を一斉に植える「育成単層林」の人工林です。しかし、そうした森林は集まる虫や動物が限定されてしまいます。その状況を変えるために目標とされているのが「育成複層林」です。 林齢や樹種が異なる土地をパッチワークのように組み合わせた人工林で、コストや技術の面から一本一本の管理とまではいきませんが、単層林を複層林に変える動きが始まっています。その時に必要なのはゾーニング。 「木材生産のための人工林」「これまでの人工林に広葉樹を交えて造る天然林」「これまで通りに維持する天然林」といったように、目的別の区分を明確にし、木材生産だけでなく、自然災害対策や多様性保全といった、森の公益的な機能も重視しなければならないでしょう。 補足として伝えておきたいのは、言葉の定義がまだ曖昧だということ。例えば「育成単層林」といっても、数十年管理をしていれば、自然と低木層が育つので、「育成複層林」と呼べる環境になります。名称についての科学的な議論はなされていないのが現状です。
Q.木材を供給する以外の森の役割を教えてください。 A.水を育む。生物の住処となる。土砂災害を防ぐ役割もあります。 森林の役割は木材を造ることだけではありません。ですが、森林の活用を議論する場では「林業」の側面が多く語られるので、その公益性が忘れられがちです。 第一に、森は生命を育む場所です。多様な動植物が生態系を営んでいることを忘れてはいけません。地球温暖化を緩和すること。土砂災害を防ぐこと。大気を浄化したり、騒音を吸収したり、私たちが暮らす環境の快適さにも関与しています。 そして、水源。この国の豊かな水は森林の地層によって浄化されたものです。ほかにも、スキーや登山などレジャーの場となったり、四季折々の風景から伝統文化や芸術が生まれたりと、森林から受ける恩恵は語りつくせないほどあります。