花嫁を全力で笑わせる「道化」とは 岩手の「幻」の風習を訪ねた
嫁ぎ先を目指してぞろぞろ歩く花嫁行列の前に、突如躍り出る謎の一団。宴会でおなじみの「ハナメガネ」や派手な衣装を身につけ、ひょうきんな動作で花嫁らを笑わせようとする。「道化」と呼ばれる一風変わった祝賀行為は、かつて岩手の南東部で盛んに行われたという。だが、近年はほとんど見かけることはなくなった。「道化の真相を知りたい!」。そんな思いが、私を取材へと駆り立てた。
寡黙な東北人がなぜ?
私が道化を初めて知ったのは、東日本大震災の被災地域で結婚を支援する人たちを取材しているときだった。インターネットで情報を集めていると、こんな文章が目にとまった。 「鼻メガネに赤子をおぶったオバさんたちが、ピエロのような身ぶり手振りで沿道に愛想をふりまく」 岩手の名菓「かもめの玉子」で知られる「さいとう製菓」(岩手県大船渡市)のホームページに載っていた道化の紹介文だ。 「寡黙」と言われることが多い東北人からは想像できない光景だ。古式ゆかしき伝統行事なのか。それとも「フラッシュモブ」のようなどっきりか。厳粛な雰囲気だったであろう昔の結婚式で、さながら芸人のように笑わせようとしたのって一体……? 次々とわく疑問を解決するためには、「リアル」な道化に会うしかない! そう心に決めたのである。 文献を使って調べたところ、さいとう製菓がある大船渡市が、道化の盛んな地域だとわかった。市教育委員会に問い合わせると、市内の公民館で役員をしている鈴木貞夫さん(73)を紹介してもらった。なんでも鈴木さん宅は、道化たちが支度をする場所になっているらしい。さっそく電話をかけてみた。 「道化が盛んに行われていたのは今から20年か30年ほど前。婚礼を家でやらねぐなれば気にも留めねぐなるし。わがっとしたら80~90代の人だぢ。そのころのことを知る人は、もうこの世さほとんどいないってことさ」。電話の向こうで鈴木さんの笑い声がする。 「わざわざ来てもらうほどの話はありませんよ」と鈴木さんは言いつつも、資料を送ってくれることになった。