花嫁を全力で笑わせる「道化」とは 岩手の「幻」の風習を訪ねた
道化に祝福された元花嫁は語る
かつて道化に祝福されたという女性にも会うことができた。中村ミヨコさん(80)。下船渡地区に住む。「最初は何だかわがらなくてびっくりしたげど、みんなしてにこにこしながら迎えでけで、こごさ来てよがったなぁて心がら思ったもんだよ」と中村さんは当時を振り返る。そして、こうも言った。「わだし自身も早ぐ馴染めるように努力したし、周りの人だぢも気さぐに話しかげでけだのね。今でも壁のない付ぎ合いがでぎでるのは『道化』のおかげ」 イラストレーターの三浦のろこさん(40)も10年前に結婚した際、道化に歓迎された。嫁ぎ先に着こうかというとき、カラフルな衣装の女性たちがわらわらと出てきたという。「一体何が始まるのかと親戚一同驚きました」と思い出す。三浦さんは大船渡市に隣接する岩手県陸前高田市の出身。だが、道化についてはまったく知らなかった。祝福や歓迎の意味を知り、うれしかったという。
道化の起源
道化の起源も知りたくなった。道化は、花嫁を山賊から守るために始まったとする説がある。元岩手県立博物館館長で歴史学者の金野静一さん=大船渡市出身=に電話で聞くと、こう答えてくれた。「それは、若い娘を嫁に出すとき、若衆組が邪魔したことを表してるんじゃないかな」。金野さんによると、今の青年団のような組織「若衆組」というのがあり、そこに所属する若い男性たちが、ほかの地域に嫁ぐ女性を、さらうまねごとをする風習があったという。「もったいないからやらないぞと、大げさに邪魔立てする。昔は両親よりも若衆組から結婚の承諾を得る方が大変で、道化は若衆組の遺習と言っていいかもしれないね」と金野さんは話す。 一方、金野さんは著書「陸前・気仙の民俗」でも道化について詳しく記している。「嫁の行列が近くまでくると、なるべくたくさんの提灯をもって近所まで出迎える。明るい中でもそうである。嫁が来たるべき苦難の道を、一同こぞって援助するという意味だと言い、『嫁見』も昔は、その意味だったと伝えられているが、昔の村内婚の名残りであろう」。道化が地域に根付いていた様子がうかがえる。