コロナ危機で離島の焼酎蔵が結束 「東京島酒」を世界へ広げ始めた3代目
「東京島酒」の認定がプラスに
コロナ禍という危機的状況の中、各蔵は束になってPRをしたいと思いがありました。一人や家族だけで運営する蔵が多く手が回りづらい中、八丈興発は人手に余裕があったため、小宮山さんはGI指定がスムーズに進むよう、会議の調整や提出書類の作成といった裏方仕事に汗をかきました。 小宮山さんは「GIに指定されるには時間がかかる」という覚悟もあったため、焦らず、滞りなく進めることを意識しました。 コロナ禍で十分に話し合える時間ができ、離島同士でもオンライン会議でつながりやすくなったことが功をなし、2024年3月13日、「東京島酒」としてGI指定を受けました。焼酎のGI指定は18年ぶり5例目となります。 東京島酒の対象は伊豆七島の酒蔵で、麦こうじのみを用いる、伊豆諸島の島内で採水した水のみで造るなど厳格な基準があります。 小宮山さんは東京島酒の特徴を「緑豊かな島の環境でやわらかな水を用いて造る本格焼酎です。麦の香ばしさやカモミールのようなフローラルな香りを持ち、やわらかで軽快な後口の中にコクとうまみが静かに感じられます」と説明しています。 八丈興発は現在、「GI東京島酒管理委員会」の事務局となっています。GI指定で、東京七島酒造組合にプロモーションや登壇の依頼が増え、小宮山さんら組合のメンバーを中心に引き受けています。 「GI指定後は、羽田空港内の店など以前は営業を断られていた場所にも、東京島酒ブランドとして置いていただけるようになりました」 2024年9月に開かれた「創作カクテルコンペティション」(一般社団法人日本ホテルバーメンズ協会主催)にも、東京島酒が使用されました。それまで、バー業界への営業は難しい状況でしたが、GI指定で協会から声をかけてもらったといいます。
伸びしろのある焼酎を世界へ
2020年~2023年まで八丈興発の売り上げは横ばいでしたが、GI指定以降は、月間売り上げが前年比増を記録しました。需要が低迷しがちな8月も前年の約120%に達し、特に飲食店向けの売り上げが増えています。 「GI指定されても営業方法は変わらず、1店舗ずつ丁寧にやり取りしています。何もしないと売り上げが落ちるので、常に行動を起こしたいです」 その意気込み通り、小宮山さんはGI指定を追い風に、輸出を経営の最重要項目に据えています。 八丈興発は2008年に輸出に乗り出した過去があります。しかし、「(輸出業者の)言われるがままにお任せで出してしまい、コミュニケーションも無く自然消滅してしまいました。国内のブランド構築を最優先し、一度輸出から撤退しました」と振り返ります。 それでも、GI指定に向けた動きと並行し、2023年から再び輸出にも力を入れ始めました。八丈興発の焼酎をフランス、オランダ、香港、台湾に輸出しています。 2024年には、フランスのトップソムリエなどが日本の酒を審査するコンクール「Kura Master」(クラマスター)で、「麦冠情け嶋」が麦焼酎の部門の金賞を受賞しました。 国税庁の資料によると、2023年の焼酎の輸出額は16億円で、清酒(日本酒)の410億円には遠く及びません。それでも、小宮山さんは「まだまだ伸びしろがあります」と意気込みます。 そのためには八丈興発だけではなく、島しょ部が一丸となり、東京島酒を広めることが必須です。海外のインポーターは卸先のレストラン名や受賞歴を重視するため、年に1回はコンペティションに出品したいと考えています。 「ウイスキーの聖地であるスコットランドのアイラ島では、日本人観光客が蔵巡りに訪れています。八丈島も旅行のついでではなく、焼酎蔵の見学をメインに人を呼べるよう、各蔵で連携していきたいと考えています」 八丈興発の焼酎を含む東京島酒が、海を越えて注目される未来も遠くないかもしれません。
フリーライター・Fujico