戦争犯罪を裁く国際裁判所は「正義」をどう実現しようとしているのか 「人道に対する罪、座視しない」「法の支配を促進する」…2人の日本人裁判官が語ったこと
ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザ情勢…。世界では国際紛争や戦争犯罪が疑われるケースが後を絶ちません。こうした中、未曽有の人的被害を出した20世紀の世界大戦を教訓に、力ではなく法に基づいて裁く試みが進められています。オランダ・ハーグにある二つの国際裁判所の日本人裁判官2人に聞きました。(共同通信パリ支局長 田中寛) ロシア、ICC所長らを指名手配 侵攻巡り、プーチン氏に逮捕状で
【赤根智子・国際刑事裁判所裁判官】 国際刑事裁判所(ICC)は戦争犯罪や人道に対する罪など、とてつもなく大きく悲惨な犯罪と闘うために設立されました。発足してからまだ約20年ですが、少しずつ成果を上げてきています。その目的を達成するためには一つずつ成果を上げること。手続きにのっとった捜査と訴追で責任を追及していく作業を繰り返すことが重要です。そうすることで、ICCがあるがゆえに犯罪が抑止されるということにもつながるのです。 大きな戦争犯罪があった時、それを事件として処理して法の裁きを経ることで、正義が実現されたという意義をもって被害者が前に進む一つのきっかけにしてもらいたいです。死んだ人は生き返らないし、被害者の心の傷は全ては癒えないかもしれませんが、次に進もうという気持ちになってもらうには裁判は大きな役割を果たすのではないかと思っています。 ロシアのウクライナ侵攻で、自分自身も目が覚めた気がします。世界の多くの地域で国際紛争の危険が増しているように感じます。日本も国際社会の一員として、戦争犯罪や人道に対する罪に適切に対処できるよう国内法の整備を図ることや、ジェノサイド条約に加盟することが急務です。戦争犯罪や人道に対する罪を決して座視しない姿勢を示していくことが重要です。
法整備をすれば、そうした罪を犯した人物が日本に入国した場合は捜査・訴追の可能性が出てくるため、日本の刑事司法関係者の関連知識や実務能力も高まります。そうすることで、日本をより広く世界に向けて開き、若者たちが世界でもっと貢献できる社会に脱皮していけるのではないでしょうか。日本の若者には、世界市民としての役割を果たすことを期待します。 ICCの裁判官はそれぞれ国籍も、法律のバックグラウンドや前職も違い、意見が合わないこともあります。多様性の中で答えを見つける過程は難しいですが、互いの意見を尊重することにつながっています。そうした中で一番真実に近く、正義を実現する方策を見いだす。そこに学びがあります。 ウクライナ侵攻に絡んでICCがロシアのプーチン大統領らに逮捕状を出したことを受け、私自身もロシアから指名手配を受けました。しかし、そのことでICCの業務が害されてはいけません。今後も普通にやっていくだけです。