「ドラマのストーリーだけでは分からない」等身大の韓国を知る
「ウリ(私たちの)」仲間、共同体意識
階級や序列意識がタテの人間関係なら、韓国のヨコの人間関係の特色は「ウリ(私たちの)」仲間、つまり共同体意識の強さである。 「しょっちゅう飲み会の誘いがあります」と、金光さん。男女とも、複数の人数の宴会である。 「飲み会や食事会、カラオケを繰り返し、仲良くなると”ウリ“です。それ以外の人と違ってグッと親しい間柄になるんです」 ウリ関係になると、そこから人脈が広がりビジネスに結びつくことも多い。
「親しき仲には遠慮なし」
その意味では大事な人間関係なのだが、裏に「親しき仲には遠慮なし」の側面も貼りついている。 「韓国人って、疑い深いのにウリ意識が強いから信じやすく騙されやすい。だから詐欺事件が多いんですよね。それがドラマになると、情に厚く義理に薄いこともあって、裏切りや復讐といったテーマに収斂しやすいんです」 裏切りでいえば、女社長の主人公が夫や友人、社員に裏切られる『私のハッピーエンド』(23)がある。復讐ドラマは、タクシー運転手が復讐代行人となる『模範タクシー』(21)や、主人公が学生時代のイジメ相手に次々と復讐を果たす『ザ・グローリー』(22)、それに前述の『財閥家の末息子』など、数え切れないほど本数が多い。 「復讐が韓国ドラマの一大潮流だから、サブタイトルに『なぜ主人公は復讐を遂げるのか』と付けたんですね?」 「はい。階級や序列、ウリ意識などでいろいろ裏切られた人々が、代理満足として、ドラマの中の私的復讐に快哉を叫ぶ。そんな構造が韓国ドラマの背景にあると思います」 金光さんは、日本生まれの日本育ちで、日本の大学を卒業した後に韓国に渡った。 「当初はソウルで延世大大学院に入られたんですね?」 「延世大学の語学堂(語学学校)を修了して、大学院に進みました。途中で辞めましたけどね。『前の日本人留学生より韓国語が下手だ』とかさんざん言われて仲間にも入れてもらえず、ショックで嫌になって退学しました」 とはいえ、「今は友人もたくさんでき、いいパートナーとも出会えて満足」と言う。 「最後に、今年ノーベル文学賞を受賞した作家・漢江(ハン・ガン)の社会的反響は、どのようなものでしょうか?」 「友人たちに片っ端から『おめでとう!』と言ったんですが案外クールでしたね。政治的事件を扱った作品が多いせいか、『本人ではなく、国力が上がったから国が取ったんだ』とか。『左派ロビーが上手に立ち回った』とか。韓国では、ドラマや映画に限らず、文芸分野の海外進出にも国の予算が付いているので、確かに「国が取った」という側面はあるかもしれません。平和賞をのぞけば韓国初の受賞なので、『記念に買っておくか』みたいな感想が多いようでした」
足立倫行