「ドラマのストーリーだけでは分からない」等身大の韓国を知る
財閥(チェボル)の存在
そんな文化的土壌を形成する社会要因の一つが財閥(チェボル)の存在である。 「金光さんは『韓国人の日常は財閥に支配されている』と書かれていますね?」 「はい。新大統領が就任すると、まず財閥のトップらと会談します。政治は大統領中心ですが、経済は財閥が動かしていますから」 サムスンやLG(電子、家電など)、現代(車)、LGやSK(運輸)、ロッテ(コンビニなど)、韓進グループ(航空)……。 身の回りのアレコレはほとんど財閥系企業が運営している。しかし階級社会なので、財閥の一員になるのは庶民にとってはまず不可能。そこで財閥に対する憧れと嫉妬が生まれる。 『愛の不時着』は、財閥令嬢のパラグライダーが北朝鮮に不時着する場面からストーリーが始まるし、『財閥家の末息子』(22)は、財閥一家に殺された男が、財閥の末息子に生まれ変わって復讐を果たすドラマだ。
階級を形成する学閥(ハクボル)
階級を形成する別の要因として学閥(ハクボル)もある。 日本の大学入学共通テストに等しい韓国の修能(大学修学能力検定試験)を、金光さんは「中国の高考(ガオカオ)に次ぐ厳しい試験」と記している。 格差が厳しい韓国社会で、下層から這い上がる唯一の手段は学歴。少しでも偏差値の高い学校に入学するため英語などの「先行学習」を幼稚園から開始し、寝る間を惜しんで受験勉強に没頭する。 学閥の頂点がSKY(ソウル大学、高麗大学、延世大学)である。ドラマ『SKYキャッスル』(18)は、高級住宅街のセレブたちが織り成す受験狂騒劇を描いたものだ。 「修能の受験生をパトカーが会場まで送り届けるとか、後輩らが太鼓を叩き受験の応援するとか、ニュース映像で見ましたね」 「今や韓国は、大学卒業は義務教育感覚です。トップはソウル大学の医学部で、その次に地方国公立大学の医学部、SKYの他学部。とにかく男でも女でも、大学を出ていなければ相手にされません」 高卒より大卒、地方よりソウル、下町より高級住宅地、といった序列意識の根底に、金光さんは「朝鮮時代の両班(ヤンバン、貴族)制度の名残があるのでは」と言う。 「両班は書物を読むだけの生活。生産活動はすべて労働者に任せ、彼らを下に見る。今でも食堂で働く小母さんや道路工事の小父さんなど労働者は一段下の人間と見なされ、頭脳労働のみが重視されていますからね」