「マクドナルドが高すぎる!」…ビッグマック「2800円」論争が映し出す、「アメリカ人の悲惨な生活」と大統領選での「怒りの矛先」
ほくほくの「富裕層」
一方で、富裕層ではインフレの悪影響はあまり大きくない。それを如実に示すのが、消費の統計だ。まず、米国内総生産(GDP)の約70%は消費が生み出している。そして、米労働統計局によれば、2022年に世帯年間収入の最も高い上位2つの五分位階級が消費額全体の62%を生み出す米消費の牽引役となっている。 つまり、米GDPの半分近く、43%が裕福層の消費によるものだ。そして、米GDPの堅調な成長が持続し、消費が衰えないのは、裕福層がサービスを中心にカネを落とし続けているからである。米調査企業ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミストであるマーク・ザンディ氏は、「高所得層が消費し続ける限り、消費関連指標は堅調だ」と述べている。 中間層や低所得層でも消費額は伸びているが、その大部分はインフレにより物価が上昇して、今までと同じ生活、あるいは切り詰めた生活をしても支出が否応なしに増えた結果である。 先述のように、多くの世帯が生活に必須の支出を優先させた結果、「ぜいたく」に属する外食やブランド品の消費を切り詰めている。ファストフードチェーンや小売大手は、こうした現実に対応して、売上を維持するために値下げをしているのだ。 民主党系のシンクタンクである米経済政策研究所によれば、低所得層の所得が2019年から2023年の間に12.1%上昇した。だが米労働統計局の調べでは、2020年3月から2024年3月の間に、米食品価格が24.6%上昇している。賃上げが物価上昇のペースに追いついていない。
家賃も保育費もすべてが「爆上がり」…
もちろん、問題は食費だけではない。 米住宅取引サイトのジローによれば、家賃は2019年から2023年の間に全米平均で30.4%も上昇した。月々の支払いが2000ドル(31万5000円)であった家庭は、単純計算で2600ドル(約41万円)が必要となる計算だ。 加えて、バイデン大統領が就任した2021年1月から2024年1月の3年間に電気代が30%近くも上昇していると米ブルームバーグが報じている。支払い月額が300ドル(4万7000円)であった家庭は、今や390ドル(6万1000円)が必要だ。 また、子供の保育費も値上がりが止まらない。金融大手の米バンクオブアメリカが自行の顧客にアンケート調査をしたところによれば、2019年から2023年の間に保育費が30%上昇している。 これが結果的に女性の労働参加率を抑制する一因となっており、米ワシントン・ポスト紙の経済記者であるヘザー・ロング氏は、「保育費値上がりの抑制をしなかったバイデン大統領が、今週の選挙で一部の票を失う要因となるかも知れない」と指摘している。 その他、米労働統計局が調べた自動車保険料は2023年1月から2024年1月の間だけで20.6%も上昇。住宅保険は2022年と2023年を合わせて20%上がり、2024年もさらに6%の上昇が予想されると、米ニュースサイトのアクシオスが伝えた。 また、医療保険や学費、通信代、クルマの価格やローン金利など、およそ考え得る家計の固定支出で大幅に上がっていないものはない。貯蓄の取り崩し、クレジットカードのリボ払い利用などで何とかしのぐ家庭が増えている。 ちなみに、米連邦準備理事会(FRB)の2022年消費者金融調査によると、トランプ前大統領の支持者が多い労働者層の中心を構成する高卒者では、平均貯蓄残高は2万3380ドル(約351万円)であるのに対し、バイデン大統領支持者の多い大卒者は11万6010ドル(約1740万円)と、およそ5倍の「クッション」を持つ。