ガザで「光」を見たイラク人10年ぶりの救出劇、ユダヤ教「ハヌカ」で振り返る苦難の物語
その後、アメリカ大使館職員が付き添い、アレンビー橋を渡ってヨルダン領に入り、イラク領事館に保護された。 翌日、飛行機でイラクのバグダッド、アルビルに飛び、車でシンジャールに入った。10年ぶりの帰郷だった。ファウジアさんは21歳になっていた。ISの虐殺を生き延びた父は3カ月前に亡くなっていた。懐かしいはずの故郷の風景は、もうそこにはなかった。 イスラエルとイラクには国交がない。イラク政府はアメリカに対して謝意を示したが、この救出作戦を陰で支えたイスラエルに関する言及はなかった。
ファウジアさんはヤズィディ教徒のコミュニティに戻った。筆舌に尽くし難い壮絶な10年をくぐり抜け、彼女は自由を取り戻した。人生の半分をISとハマスの奴隷として過ごした彼女は、また同じことが自分の身に起きるのではないかという恐怖と今も戦っている。 家族を失った悲しみ、平和な故郷を陵辱された怒り、失われた自らの10年間を振り返り、様々な感情に苦しめられている。2人の子どもとは、ずっと会えていない。 「ハマスはISと同じです」
ファウジアさんの証言によると、ガザ地区には奴隷として売られたヤズィディ教徒が他にもいるという。 「拉致されて今も人質になっているイスラエルの方々が、1日も早く家に帰られるよう願っています。彼らがどのような日々を過ごしているのか、私にはわかるからです」 ■ガザ侵攻がもたらした救出劇 イスラエルがガザに地上侵攻しなければ、ファウジアさんが助かることもなかった。ISから救出されるのは稀なケースだった。『THE LAST GIRL』(東洋館出版社)を著したヤズィディ教徒のナディア・ムラドさんもISに性奴隷として誘拐された後、九死に一生を得た1人だった。
その後、同胞を救出する活動を続け、2018年にノーベル平和賞を受賞している。 ガザ地区のどこかに、今もハマスに拉致されたままの人が100人いる。ハヌカ祭を迎えるにあたり、イスラエルでは、闇を駆逐する神の光が今の時代に現れるよう、祈りが捧げられている。
谷内 意咲 :ミルトス代表