【EV嫌いからEV好きに?】トランプの鼻息は荒くも強い市場の力、民主党と共和党のエネルギー政策をどう見るか
ガソリン価格は原油価格に完全にリンクしている(図-4)。トランプ政権になれば、化石燃料生産への支援が強化されるのは間違いない。 しかし、米政府が原油市場をコントールすることはできないし、生産コストと事業者の収益を考えれば、価格がこれから大きく下がることはないだろう。 両党共にキャンペーンでは、支持者の関心に応え主張が誇張される傾向にある。
大きく分かれる民主党と共和党支持者の意見
共和党と民主党支持者の意見は、エネルギーと気候変動問題に関し大きく異なるので、両党の大統領候補の政策も異なる。 今年3月に発表されたシンクタンク・ピューリサーチ―センターの調査によると有権者の間で民主党、共和党への支持率は拮抗しているが、両党支持者(どちらかといえば支持も含む)が考える優先課題は大きく異なる。 民主党支持では、医療費削減が70%、気候変動に対処が59%だが、共和党支持では最優先は経済強化で84%、気候変動に対処は最低の12%しかない。 化石燃料生産あるいは風力、太陽光、水素(再エネ)生産のどちらを増やすべきかの質問でも、両党支持者には大きな意見の差がある。民主党支持では、化石燃料12%、再エネ87%。共和党支持では、化石燃料61%、再エネ38%だ。 両党支持者の意見は、EVを巡る問題でも大きく分かれている。
どうなるのかEV市場
ピューリサーチセンターが今年6月に発表したEV購入意欲に関する調査では、購入補助金制度が今年から使いやすくなったにもかかわらず、EV購入を検討する消費者は昨年調査から9%減の29%になった。 やはり支持政党によりEVの購入意欲には差があるが、居住地によっても購入意向は異なる(図-5)。 田舎に住んでいる人がEVを選択しないのは、充電インフラが十分ではないからだ(〈EV販売失速は本当か?〉日本のメディアが見逃している真実、データから見る世界のEV販売の現状 )。全米でも充電インフラが拡充されない不安を抱く消費者が59%いる。 乗用車販売に占めるEV、特に電池稼働のEVのシェアの伸びが鈍化してきている(図-6)。インフラ整備の状況が購入意欲に影響を与えているのだろう。 メーカー別では、5年前には米国EV市場の約8割を握っていたテスラが年々シェアを落とし、今年上半期のシェアは約5割になった(図-7)。 バイデン政権は、充電インフラ整備に補助金を支出しているが、トランプは当然打ち切る方針だ。今年環境保護庁が強化した乗用車の排出規制も、トランプ政権になれば見直されEV導入スピードも予想より落ちるだろう。 補助金廃止に加えインフラ整備も遅れるとなると、購入を見送る消費者も出てくるだろうが、環境問題などが動機のEV購入を考えている3割の消費者の大半の意向は、変わらないのではないだろうか。 トランプ大統領が誕生しても、EVシェアが急減する可能性は小さそうだが、環境規制の見直しは中長期のEV販売には影響を与える。次の大統領次第で、中長期のEV市場の成長率は変わるだろう。
山本隆三