【EV嫌いからEV好きに?】トランプの鼻息は荒くも強い市場の力、民主党と共和党のエネルギー政策をどう見るか
トランプ前大統領は、電気自動車(EV)が好きなのだろうか、嫌いなのだろうか。 4月2日にミシガン州で開催された選挙集会では、バイデン政権がインフレ抑制法に基づき導入したEV購入時の最大7500ドルの補助金を、大統領に就任すれば初日に廃止するとトランプは息巻いていた。その後の集会でもバイデン政権のEV支援政策を非難するスピーチを続けていたが、7月末から一転EVに対する攻撃を中止した。 【図表】米国ガソリン価格推移 トランプは、その理由をEVメーカー・テスラ創業者で世界一の富豪とされるイーロン・マスク氏がトランプ支援を表明したためとスピーチの中で明らかにした。トランプはEVを全面的に推すわけではなく、多くの選択肢の一つとしたが、それまでのEVを毛嫌いする姿勢からは大きな転換だった。 EVの補助金の廃止を止めるとは発言していないので、トランプが再度大統領になれば、EVへの補助金は廃止され、EVの販売は振るわなくなるのだろうか。トランプは、集会の中で「化石燃料を掘れ、掘れ」と述べていたが、トランプ大統領になれば、化石燃料の生産は大きく伸び、価格は下がるのだろうか。 8月14日の選挙集会ではトランプは経済政策に触れ、中間層の所得増のためエネルギー価格と電気料金を就任後18カ月以内に半額以下にすると表明した。 過去の大統領選のキャンペーン中に述べられた政策は、大統領就任後必ずしもそのまま実行されていない。実行されても市場の力に負け、成果を得られないこともあった。 今回のキャンペーンも文字通り受け取ることはできないが、市場の動向を踏まえ化石燃料の生産とEV販売の先行きを考えたい。
選挙キャンペーンと環境・エネルギー市場
大統領選のキャンペーンでの主張が大統領就任後直ちに実行されたこともあった。 2017年に就任したトランプは、気候変動対策として合意されたパリ協定から離脱した。バイデンは21年の就任直後にパリ協定に復帰した。 共和党と民主党の大統領のエネルギー・環境政策は大きく違っていたが、エネルギー生産のデータからは、大統領の政策が生産、消費に与えた影響は限定的だったように見える。 政策が与えた影響が大きくないように見える理由の一つは、大統領になるとキャンペーン中の主張の極端な部分が必ずしも実行されないことがある。もう一つの理由は、連邦政府に市場の力を変えるほど大きな影響力がないことだろう。加えて中長期の政策は、政権交代で反故にされることも多い。 たとえば、バイデンは、大統領就任前には気候変動対策として連邦政府所有地の石油・天然ガス鉱区の新規設定を中止するとしていたが、新規鉱区の設定面積の削減に留めた。産業と生活を考えれば、石油と天然ガス生産量の削減が現実に可能なはずがない。 トランプは石炭産業を復活させ石炭への戦争を終わらすとキャンペーン中に主張していた。就任直後から石炭火力の排出規制を変更し、環境規制を緩和したが、市場の力には勝てず石炭産業の後退を食い止めることはできなかった。 米国の人たちの考えは、支持政党により多くの政策について大きく異なる。両党の大統領候補もそれを踏まえて政策を打ち出している。特に気候変動とエネルギー問題では両党支持者の意見は大きく乖離している。