頭のいい人が陥る「対話の落とし穴」とは? ベストセラー『LISTEN』に学ぶ、相手を深く知るためにやめるべきこと
ビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、名著の「ツボ」を毎回イラストを交え紹介する。 連載第16回は、ワシントン・ポストやフィナンシャル・タイムズで絶賛されたベストセラー『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィ著、篠田真貴子監訳、松丸さとみ訳、日経BP)を取り上げる。より多くの情報を得て、相手を深く理解するための極めてシンプルな対話法とは? ■ なぜ先回りするほど、対話がうまくいかないのか 大学で教員を務めている関係で、大学生から日々相談を受ける機会がある。その内容は、キャリアから授業の相談、友人関係とのトラブルからはたまた恋愛相談などバラエティーに富んでいる。 忙しいビジネスパーソンからしたら、「取るに足りない相談」と思えるものがほとんどだろう。だから、すぐに一刀両断の鋭いアドバイスをして、バッサバッサと問題解決をすべきだと思うかもしれない。 ただ、私は学生に対してアドバイスすることはほとんどない。ひたすら聞いているだけだ。 聞くだけでなく、相手の言葉を手書きでメモを取るようにしている。そして、学生が言った言葉をそのまま復唱してあげる。 「そうか、達也は宿題を片付けたいのに、ついつい動画とかSNSに気が移ってしまって、気付くと時間がなくなっているんだね」と。 正直に言えば、「そんなことを私に相談してくるのか」と驚くこともある。もしくは、「またこの手の相談か」とだいたい何が言いたいかが読めて、その先の展開が想像できてしまう時も多い。 だから、「とにかく、やるべきことをちゃんとやったら?」と厳しく突き放したり、「おそらくここが本質的な課題だから、その部分を意識して取り組んだ方がいいよ」と鋭く本質を指摘したくなる気持ちも出てくる。 しかし、そういう先回りした対話ほど失敗するのだ。失敗というのは、その言葉で人間関係がこじれるとかそういう極端な話ではない。シンプルに、アドバイスがアドバイスとして機能しないのだ。 アドバイスし終わった後は、「良いアドバイスができた」とか「いい感じで喝を入れられた」という手応えを持つが、実態として何も変わってないことに時を経てから気付く。他人の問題解決をしたつもりが、単なる自己満足に終わっているのだ。