旅人・三浦春馬とアジアの街をさまよい歩く。
旅先で出会って、今後の人生で2度と会うことはないだろう----。 そう感じた「出会い人」は、その時の自分を正直にぶつけられる相手になり得る。 ドラマ「tourist ツーリスト」で三浦春馬が演じる天久真(あめく・まこと)は、アジアの街を訪れた3人の女性たちを受け止める、そんな存在だ。 東南アジア特有の湿気が画面中に漂う極彩色の風景の中で、(第2話台北編中の最後の一部を除き)真はブラック&ホワイト、もしくはグレイの服を着ている。無彩色の彼はビビットカラーの街中でむしろ目立っているけれど、鮮やかなエスニックカラーに身を包む女性たちにとっては、安心感のあるニュートラルな人物に映る。
女の人は自分を幸せに見せるのがうまいから。
第1話バンコク編で真が出会うのは年上の女性・さつき(水川あさみ)。さつきはTVプロデューサーという仕事にも恋にもどこか限界を感じて満足できず、どうにでもなれ!という自暴自棄な気持ちを抱え、もう一人の自分と対話をしながら、旅の時間を過ごしている。そんな時に、盗難に遭ってお金を失くした真を「買う」と、旅のパートナーに指名。観光名所の寺院や、夜市の賑わい、チャオプラヤ川沿いのそぞろ歩き、街の片隅にある賭博場となった家屋など、ふたりが訪れる場所のバンコクらしい魅力が伝わってくる。 どこか死生観の漂うバンコク編。前世を信じるか?という会話や、市場でさつきは骨壺を買ったり......。タンブンという功徳を積んで現世や未来で幸せになる、というタイの思想を真と共有しながら、ふたりは短い1日を一緒に過ごす。 さつきが元気を装い、幸せを演じていることに最初から気付いている真は、この旅の後に2度と会うことがないからこそ、さつきの感情に踏み込み、紐解いていく。 空港で再会したふたりは、まるで浄化されたように気持ちよくそれぞれの行先に向かう。旅の出会いの思い出を、自身の人生の一部としてきちんと整えて。
上手に諦めるのはカッコいい。
第2話は台北編。ふつうの幸せを手に入れるために、それを保証してくれそうな地味めの男性と結婚を決めた25歳のホノカ(池田エライザ)が、女友だちと3人でバチェラートリップとして訪れた台北。食べすぎでお腹を壊したホノカは九份に行くことができず、ひとり置き去りに。明日に帰国をひかえ、退屈を紛らわせようとホテルを抜け出し、冥婚の赤い封筒を拾ってしまって追われている真と出会う......。 「tourist ツーリスト」は、全編通して異国の市井の風景を見せる観光ムービーの役割も果たしているけれど、台北編でいえば冥婚など、その国独特の風習に触れて、文化を伝えてくれているのもおもしろい。そこが真と女たちのショートストーリーのきっかけにもなっている。 台北編でのキーワードは解放。朝焼けに包まれたビルの屋上で、真の探し人が描いた風景を発見するシーンは心がふわっと軽くなる。猜疑心の強い真が、透明感に満たされる場面でもある。 そして、ふつうの人生で幸せになるために、ふつうに結婚しようときれいに諦めて進むホノカを、カッコいい、と表現する真の言葉は、多くの女性たちの慰めになるに違いない。