旅人・三浦春馬とアジアの街をさまよい歩く。
人生を、記憶を、上書きする。
第3話はホーチミン編。恋愛結婚し、子どもを産み育て、そして離婚に向かう女性が主人公。夫婦関係のいちばん楽しかった記憶を辿り、夫(バカリズム)がいまの恋人と訪れているホーチミンまで追いかけて来てしまったカオル(尾野真千子)。クラブで酔っ払って一緒に踊った真をまったく覚えていない状態で翌日再会し、夫と過ごしたかつてのホーチミンの思い出を真とデートして上書きしていく。その途中で夫の恋人(成海璃子)と遭遇、彼女が纏っていた目も覚めるような美しい緑のアオザイをきっかけに話しかけ、カオル自身もアオザイを購入する。ベトナムでは祝いの場で着るともされるアオザイが、最終的にはカオルの記憶を「上書き」ではないカタチで昇華していく----。 ホーチミン編の真は包容力が増して、女性のエスコートも手練れになってきている。良き、旅の道連れに進化しているのだ。
3編とも、同じ場面をちょっぴり短縮して真からの視点で女性たちを観察した独白の入ったバージョンが追加されているのがユニーク。時に覚めた目線で、時に愛をもって女性たちを眺める真の心情が語られていて、インタラクティブな人間関係がメッセージされている構成がおもしろい。 「tourist ツーリスト」の中の三浦春馬演じる真は、ピュアな青年ではない。諦観を持っていて、感情に支配されることなく、意地の悪いところもある。人探しという名目で自分探しをするために旅をしている。他者との関係を積極的に求めていないはずなのに、結局、他人と絡み合う運命を持った人物だ。 そして、「tourist ツーリスト」は、上空から街を眺めるのではなく、その街を訪ね歩き、暮らす人たちのテンポで描いている点にシンパシーを感じられる。 旅という非日常で起きる出来事や他者との出会いは、日常とのコントラストで考えられがちだけれど、決してそれだけではない。自分の中に積み重ねられていくその思い出で、人生の次の一手を考えるきっかけになることさえあるのだから。 三浦春馬の真は、出会う人たちに自身の運命と向き合うことを促してくれる。
「tourist ツーリスト」
●監督/山岸聖太、スミス、横尾初喜 ●2018年、日本製作ドラマ ●本編244分+特典映像68分 ●Blu-ray ¥10,560 発売:Paravi 販売:TCエンタテインメント ©Paravi