中関白家が凋落したからこそ…千年続く〝枕草子のたくらみ〟 権力を失っても輝き続ける「美」
平安中期 女性が政治的に活躍した時代
水野:自分の兄・伊周を天皇に推薦し、寵愛される定子さまもそうですが、道長の正妻・倫子さまの母・穆子(ぼくし/むつこ)さまが、女院と道長一家との同居を決めた、という政治的な決断も描かれていましたよね。 道兼が亡くなって、次の関白はどうするのか、というところで、伊周にしないように一条天皇を説得する詮子さま(女院さま/吉田羊さん)の迫力もすごかったですね。 たらればさん:はい。すごかった。東三条院詮子が寝所に乗り込んで、一条天皇に涙ながらに直訴した場面が「大鏡」(平安時代後期の歴史物語)に書かれています。 大鏡は史実ではない部分もありますけど、日本政治史上「女院」になったのは詮子さまが初めてなんですよね。それが関白の人事に影響する、天皇の宣旨に影響を及ぼす…というのは、帝の母親が政治に口を出していく制度の萌芽でもあります。 政治劇でもあるこのドラマで、詮子や定子や倫子が政治家としてしっかり描かれていて、とても嬉しいです。 平安中期という時代は、女性が女性として政治的に活躍した時代であり、その活躍ぶりを描いた作品はそれほど多くないので、良し悪しは別にして、とてもありがたいなあと思いました。 水野:そして次は、道長の娘の彰子さまが関わってくるわけですね。その彰子さまに紫式部が仕えることになる。 たらればさん:平安中期最高峰の権力体制を築いた藤原道長という人は、女性に支えられた政治家なんですよね。そうした作劇での「平安期最大級のグランドマザー」である彰子さまの描かれ方、楽しみです。
まだまだ出てほしい「枕草子」エピソード
水野:中関白家の栄華が描かれた回では、「枕草子」に登場するエピソード「香炉峰の雪」が描かれましたね。 たらればさん:放送まで百通りぐらい「こんな感じかなぁ」と考えましたが、「雪山づくり」と合わせるのは考えていませんでした。意表を突かれました。 とはいえNHKが本気で作ったセットで、御簾をかかげている清少納言のファーストサマーウイカさんが見られるとは……! 「これ、どういう意味?」というのを同席していた藤原公任(町田啓太さん)が解説する演出も、「おぉ~」と思いました。 『枕草子』の名シーンは、1000年間、いろんな人がいろんな解釈をして、「こういうシチュエーションだったんだろうな」と想像して……というなかで、「NHKが推しを受肉してくれた!」という感じでしょうか。 感動したし、「『枕草子』にはまだまだたくさん素敵なエピソードがあるので、そういうシーンも出てきていいんですよ」と思っています(笑)。 水野:わたしも、ききょう(清少納言)はまひろ(紫式部)と対照的な女性として、この物語に出続けてほしいなと思います。 たらればさん:まひろの家にききょうが訪れた時、作中の道長について、「権力で上を目指さない男ってどうなの?」という当時の女性の解釈をちゃんと入れているのがいちいちストライクなんですよね。 最終話まで出て、ちょいちょいまひろの家に遊びにきてほしい。そしてちゃんと「ウザい」と思われてほしいです。 ◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。