病院の待ち時間はなぜ長い? 医療従事者と受診者、双方がハッピーな医療のために
待ち時間を可能な限り短縮したクリニック
こうした待ち時間を可能な限りなくすことを一つのコンセプトに、2021年4月、福岡市天神の駅ビルに開業したのが、古賀さんが医師を務める「ゼロマチクリニック天神」だ。駅ナカに位置する約10坪のコンパクトなクリニックは、「ゼロマチ」という名前の通り、待ち時間を極力ゼロにするシステムで注目されている。それを可能にしているのが、Inazmaが開発したWebアプリケーション「ゼロマチ」だ。 「ゼロマチでは、受診希望者がスマートフォンで予約を入れ、受診目的を自ら詳しく記入します。一般的な医療機関の場合、症状を医師に伝える行程は来院後に行われますが、受診目的を事前に把握することによって、カルテの作成を進められるだけでなく、診察にかかる時間の見通しを立てられるようになる。また、診察券ではなく、メールで届くQRコードでやりとりをすることで、不要な事務手続きの時間も削減しています」 診察後は医師の古賀さんが自ら会計まで行っていて、事務スタッフは決まった金額を徴収するだけで手間もかからない。さらに予約の際にクレジットカードを登録しておけば、受診者は後払い決済により領収書を受け取ってすぐに帰宅できる。 「定期的な薬の処方であれば、来院して最短5分以内に帰ることも可能です。初診の場合は症状を詳しく聞く必要があるので、どうしても時間がかかりますが、来院前に受診目的を細かく記入してもらうことで、かなりの時間短縮になっています。私たちは、待ち時間の短縮は仕組みで解決できると考えていますので、これからも"受診者ファースト"を意識して、一連の医療体験が良くなるような工夫をしていきたいです」
ユーザーフレンドリーな医療体験を
古賀さんは医学部在学中から起業してIT関連の仕事を行っていたが、医師として働くようになって感じた疑問や課題を解決するために、2019年にInazmaを創業した。 「基本的にITの世界では"ユーザーファースト"が徹底されていて、ユーザー体験を向上させる配慮が至るところでなされています。ですが大学を卒業して医者として働き始めた時、無駄な事務手続きが多かったり待ち時間が長かったりと、病院を受診する側も医療現場で働く側もアンハッピーだと感じるようになって。そこで、こうした一連の医療体験を改善していく仕組みをつくろうと考え、会社を立ち上げました」 現在ゼロマチのシステムを導入しているのは「ゼロマチクリニック天神」のみだが、リリース以降、全国から問い合わせが殺到。ゆくゆくは他の医療機関での展開も視野に入れている。 「事務手続きにかかる人員を減らしたり、広い待合スペースを設ける必要がなくなったりと、このシステムを使う医療機関側のメリットは大きいと思います。また、感染症の流行時には三密を避けられるため感染リスクも抑えられます。今後は、このシステムを少しでも多くの医療機関で使っていただけるように力を入れていきたいですね」 「病院では待って当たり前」という現状を疑い、改善のための新しい仕組みやシステムを見出すことによって、受診者はもちろん、医療機関側の負担も軽減される。新しい仕組みによって、病院がさまざまな意味で健全、快適になることはきっと、私たちの健康で豊かな暮らしにとって必要なことだ。
取材:三菱電機イベントスクエア METoA Ginza "from VOICE"