【未解決事件】警察庁長官銃撃事件の発生から今年で30年…オウム信者の警視庁巡査長が一時犯行自供も時効成立の理由
「自分が撃った」と話した巡査長
警視庁はその後、マスコミに脅迫電話をかけたとしてオウム幹部の男を逮捕するが、証拠不十分で釈放。 捜査が遅々として進まないなか、事件の翌年の1996年、ある男の供述から捜査は思わぬ方向に動き出す。 「自分が撃った」 そう証言したのは、地下鉄サリン事件の捜査にも加わっていた警視庁の巡査長(その後懲戒免職)だった。現職の警察官が、長官を狙撃したのか…。この巡査長は、オウム真理教の在家信者だった。 この巡査長は、事件の翌年、オウム真理教教祖の麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚が、初公判で自分の責任を回避する意味合いにもとれる「聖無頓着(せいむとんちゃく)」と発言したことを知って憤慨し、「銃を神田川に捨てた」など、犯行の具体的な状況などを話し、事件への関与を認める供述を始めたという。 しかし、警視庁はこの供述を前に“迷走”をはじめる。 具体的な供述を得ていながら、半年後にマスコミに対して、「犯人がオーム信者(※原文ママ)の警視庁警察官」などという内容の内部告発と見られる文書がまかれるまでの間、警視庁は供述の裏付け捜査を行わず、警察庁に報告もしていなかった。 警視庁は内部告発を受けて、神田川の捜索を2ヶ月に渡って進めるが、凶器の拳銃は見つからなかった。さらに、供述に不自然な点が多かったことなどから、元巡査長の事件への関与を裏付けることができず、立件は見送られた。 一連の失態で、当時の警視庁公安部長が更迭される事態となった。
逮捕されたオウム信者の4人
2004年、事件発生から9年が経ち、再び捜査が動き出す。 乏しい物証の中、関係者の証言を積み重ねるなどして、元巡査長の他、教団幹部など合わせて4人が逮捕された。 元巡査長が事件直前に現場の下見をしていた際、職務質問をした警察官がいて、この警察官が名乗り出たことなどから、少しずつ捜査が進展。 事情聴取などを進め逮捕にこぎ着けたが、実行犯の最終的な特定ができていない上での立件だった。 警視庁は元巡査長が当時所有していたコートなどを大型分析施設「SPring-8」で分析。 すると事件で発射された銃弾と同じ成分の微粒子が検出され、元巡査長は「別の信者に貸したが、誰に貸したかは覚えていない」「当日コートを現場へ持っていき、信者に似た男にコートを手渡した」、「他の信者らと3人で現場に下見に行った」などと供述したと、当時報道されているが、逮捕された4人全員が否認したり、実行犯ではないと話していた。 その後、元巡査長は「自分が撃ったような気がする」などと供述を一転させ、東京地検は「教団の組織的犯行の疑いはあるが、これまでの証拠では、実行犯を特定し、共犯関係を認定することは困難」として、起訴を見送り釈放。 その後在宅で4人の取調べを続けたが、最終的に元巡査長の供述は信用できないとの結論に達し、全員を不起訴にした。 このことで、逮捕に踏み切った警視庁の捜査手法も問われることにもなってしまった。