「欧米ならダメ社員はすぐ解雇」はウソである…日本の「解雇規制緩和」で見落とされ、誤解されている事実
■今の日本の雇用制度ではいきなりクビは絶対無理 ---------- Question.2 お金を払えばクビにできる「金銭解雇」実現が心配です ---------- 今回の解雇規制緩和議論の中で、「解雇の金銭解決」に触れた候補者もいた。 実はこの制度導入で救済の対象になっているのは労働者だ。現在は不当解雇と判決され解雇が無効になった場合、労働者は職場復帰以外の選択肢がない。法的に争った会社で働き続けることを負担に感じる労働者もいるため、本人が望めば職場復帰だけでなく金銭解決と転職の道を選べたほうがいい。 今でも労働審判で解決するケースの多くは金銭解決になっているが、解決金の相場は月給の1~2カ月分程度で、びっくりするほど安い。これでは中小企業の解雇天国は変わらない。労働者の救済手段として選択的金銭解決制度の導入と、解決金の相場の見直しは早急に進めるべきだ。 ところが今回の議論の中で、これを「お金さえ払えば企業が自由に社員をクビにできる制度」と勘違いして反対する人が大勢いた。 そんな制度はアメリカにもヨーロッパにもない。「金銭解雇」という俗説が広まっているのは、解雇規制緩和の反対派も間違った知識で議論を進めている一例である。 最近の解雇規制緩和の議論は、大企業と中小企業で異なる風景が広がっていることを理解せずに進められているため、的外れでぼんやりとしたものになりがちだ。 ■海外だからと言って簡単に解雇はできない 誤解があるのは国内の実態だけではない。海外での雇用制度についても誤解が多く、それと比較することで議論がますますおかしなものになっていく。 たとえば「海外は“働かないオジサン”をすぐクビにするから生産性が高い」という声がある。 しかしアメリカでは、ある社員を「働かないオジサン」と言っただけで年齢差別・性別差別でアウト。そもそもアメリカには定年制がない。ある年齢に達したことを理由に労働契約を破棄したり賃金を下げれば違法である。その点では非常にフェアだ。 年齢が関係ないにしても、パフォーマンスが低い人はすぐ解雇されるではないか、という見方も一面的である。たとえば「出社するといきなりセキュリティカードを取り上げられてオフィスから追い出される」というイメージがあるかもしれないが、けっして一般的ではない。 アメリカでも、解雇できる条件は事前に契約でガチガチに決められている。契約の中にパフォーマンスの条項を盛り込むことは可能だが、要件を満たした場合のみ解雇が可能で、恣意的な運用はできない。低パフォーマンスを理由に人を辞めさせたければ、企業は社員の仕事を緻密にトラッキングして、パフォーマンスを定量的に記録しておく必要があるため人事は大変。証拠を地道に積み上げてはじめて解雇が可能になるが、そこまでやっているのはシリコンバレーやウォール街などの一部の企業だけだ。 ■解雇制度だけシリコンバレーをまねることは困難 日本企業もシリコンバレーをマネしてパフォーマンスを定量的に把握すれば解雇しやすくなると考える人もいるだろう。しかし、この考えも的外れだ。 まず強行法規である労働契約法に反した労働契約は、契約自体が無効になる。たとえ「低パフォーマンスは解雇」と契約に盛り込んだとしても、それが合理的かつ社会通念上相当なものだと証明できなければ解雇できない。 証拠を示すためにパフォーマンスを定量的に把握する必要があるが、パフォーマンスを正しく評価するには、前提となるジョブディスクリプション(職務記述書)が明確になっていなければならない。日本企業の多くはジョブ型ではなくメンバーシップ型の雇用。雇用体系をいじらずに解雇だけシリコンバレーを目指すのは無理がある。