「欧米ならダメ社員はすぐ解雇」はウソである…日本の「解雇規制緩和」で見落とされ、誤解されている事実
■人材流出は希望退職制度のせいではない 希望退職を募ると優秀な人材から辞めてしまうと嘆く経営者もいる。実際、希望退職で辞めてほしくない人材が流出する現象は起きていることはたしかだ。ただ、それは優秀な人材の処遇を間違えていたために起きた現象であり、希望退職制度の問題ではない。 優秀な人材を年功ではなく実力で評価して高給で処遇し、働きやすい職場でやりがいのある仕事にアサインしていれば、残ってほしい人材は希望退職に応募しない。逆に引く手あまたの人材が不満を募らせていれば、希望退職制度がなくても転職していくだろう。 人材流出はヒューマンリソースマネジメントに失敗した結果であり、それを希望退職制度のせいにするのは経営の本質的な問題から逃げているだけである。 ■解雇権の乱用だと判断されれば解雇は無効になる 日本の大企業では希望退職制度がうまく機能していて、そもそも整理解雇という選択肢まで至らない企業のほうが多い。では、希望退職で上乗せのお金を払う余裕がない中小企業はどうか。 中小企業では大企業とまた違う景色が広がっている。現状を理解するには、まず日本独特の解雇規制を押さえておく必要がある。 実は日本では原則的に解雇が自由である。民法第627条1項はこう定めている。 「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」 当事者は使用者側も含むため、民法上は会社にも雇用契約を解約する権利が認められている。 ただし、解雇権を無制限に行使できるわけではない。解雇権の濫用だと後から裁判所に判断されたら、解雇は無効になる。原則は自由にできる解雇を、解雇権濫用法理で制限する、という法律構成だ。 解雇権の行使がどのような場合に濫用になるかは過去に裁判で争われて判例が積み重なり、現在は労働契約法第16条に次のように明文化されている。 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」 つまり合理的な理由がない、あるいは社会通念上相当でないと裁判所が判断すれば、解雇が無効になって労働契約が継続するのだ。 ■評判を気にしなければ「解雇天国」状態の実態 労働者から見て問題があるのは、司法の手続きを経ないと解雇が無効にならない点である。裁判や労働審判で無効とされるまではひとまず有効なので、裁判や労働審判中は賃金が出ない。本気で法廷闘争するなら、アルバイトでもして生計を立てながら会社側と戦うしかない。中には労働組合が生活費を支援してくれるケースもあるが、日本の労働組合は主に個社単位で発達しており、組織率は17%弱にすぎない。中小企業には組合がほとんどなく、サポートを受けられないのが実態だ。 裁判や労働審判で無効と判断されるような解雇でも、金銭的な問題がハードルになって司法で争うことを諦めて泣き寝入りする労働者は少なくない。労働組合が存在しない中小企業の世界において、解雇権濫用法理は有効に機能しない。理不尽な解雇をすればレピュテーション(評判)が傷つくリスクがあるが、それさえ気にしなければ解雇天国なのである。 ---------- Answer 人員削減自体は難しくない。大企業も中小企業も手段はある ----------