増加する「失語症」患者、言葉のプロ2人が語る発症のつらさ・回復・夢…原因となる脳卒中は冬に多発
「『朗読』を通して社会に発信し再婚したい」
2人目の石原由理さんは、先月19日に都内で開かれた朗読劇「言葉に架かる虹」を主催した「ことばアートの会」の代表。戯曲翻訳家として活躍していた13年9月、脳梗塞で倒れた。搬送先の病院で3日後に目を覚ますと、突然、読む、聞く、書く、話すということができなくなり、言葉がうまく出てこなくなっていた。失語症だ。右手足のマヒもあったという。マヒの体を支えるように杖をついて喫茶店に現れた石原さんが言う。 「失語症発症当初は、自分の名前も分からず、発話もできませんでした」 切実な思いで大学病院へリハビリに通ったが、週に1回、日記を提出するだけで効果は実感できずに通院をやめた。入院中に夫と離婚もし、苦しみと孤立感からうつ病を発症。引きこもり生活を送っていた。 そんなある日、朗読に治療の可能性を感じた。演劇には失った4技能すべてが含まれるからで、早速、健常者向けの朗読教室に通ったが、エンターテインメント好きの石原さんには面白みに欠け、結局、自宅で自分で選んだドラマの一場面を書き起こして朗読を繰り返したところ、少しずつ言葉を取り戻していった。 その経験をもとに設立した「ことばアートの会」では、さまざまな朗読教室を開催。前述の朗読劇の関係者にも、失語症や高次脳機能障害を克服して頑張るプロの俳優たちも含まれている。石原さんが続ける。 「私は朗読を通して失語症の問題を社会に発信していきたい。また、軽度認知障害や難病、健常者たちが一緒に朗読を楽しむ『ダイバーシティ朗読教室』もさらに強化していきたいと思います。そして、再婚したいです」 石原さんの笑顔に元気をもらった気がした。 ■見えない障害が患者や家族を苦しめる 東京都福祉局が2008年に行った高次脳機能障害実態調査によると、その原因のうち8割は脳卒中だ。事故は全体の10%程度で20代くらいまでの若い人に多く、中高年になると脳卒中が事故を上回っている。ほかは脳腫瘍や脳炎、低酸素脳症などで数%だから、調査結果も脳卒中と事故が要注意であることを示している。 では、高次脳機能障害を発症すると、どんな症状が現れるのか。たとえば、集中できない、同時に複数のことができないといった「注意障害」、買い物で何を買うか忘れたり何度も同じことを言ったりする「記憶障害」、視力や視野に異常がないのに片側を気づかなくなる「半側空間無視」などのほか、脳卒中に典型的な半身マヒはないのに簡単な動作ができなくなる「失行」では服を着るときに袖から手を入れることもあるという。 そして言葉の症状としてあるのが失語症だ。言いたい言葉が出てこない、「メガネ」を「時計」などと誤る、「トケイ」を「トゲイ」などと誤るといった症状で、高次脳機能障害では4割ほどにみられる。失語症を含めていずれの症状も周りには理解されにくく、「見えない障害」と呼ばれ、それがまた患者や家族を苦しめるという。