通信産業の今昔--自由化から40年間の栄枯盛衰
バブル崩壊とモバイル通信の台頭 熱狂は、唐突にはじける。「IT革命」が「ITバブル」へと変わるまで、長い時間は要さなかった。国内においても、雨後のタケノコのごとく設立された通信事業者やISPは、NTTグループ、KDDIグループ、ソフトバンクグループの三大キャリアと、その他のニッチャーに集約されていく。私が当時所属していた会社もこの合従連衡の波に飲み込まれ、その名前も組織も渦の中に消えていった。私自身も経営コンサルティング会社に転職し、通信業界を外から見る立場へと居を移した。 他方で、インターネットは利用拡大が続き、ベストエフォートの「おもちゃ」ではなく「日常利用」「業務利用」を経て、なくてはならない「社会インフラ」への道を着々と歩んでいった。インターネットへの接続手段も、ダイヤルアップからISDN※8でのアクセスを経てADSL※9、光ファイバーに変わり、56kbpsのモデムから10Mbps、10Gbpsへと進展していく。また、「iモード」の登場により、携帯電話からインターネットにアクセスすることで、いつでもどこでもインターネットに常時接続する世の中になったのである。 ※8:Integrated Services Digital Networkの略。NTTが提供していた「INS64」を代表とする通信サービス。アナログ回線でのダイアルアップサービスの次世代として、高速な(とはいえ128kbps程度)インターネットアクセス手段として一時人気を博した。※9:Asymmetric Digital Subscriber Lineの略。固定加入電話のアクセス線として使われていたアナログのメタル線で、高速なデジタル通信を提供する技術。ISDNよりもさらに高速なインターネットアクセス手段として利用された。NTT東西が提供する「フレッツADSL」や、イー・アクセス、アッカ・ネットワークス(いずれも現ソフトバンク)が提供するサービスが有名であった。 通常、需要が増えることは市場が拡大しているということであり、これにより事業者は、売り上げの増加を享受できる。しかしながら、インターネットの利用料はおおむね定額制である。スマートフォンでの利用については、月単位でその上限が決められていることが多いが、固定通信網からの利用については、ほぼ100%定額使い放題といってよい。利用が増えること、すなわち動画を見たり、SNSを利用したり、いろいろと検索してみたりという需要の拡大は、通信事業者の売上増には直接的に寄与しないのである。 それでも、まだ携帯電話事業が成長していた当時は、携帯電話で稼いで増え続けるインターネットトラフィックを支える設備投資を行うというモデルが成り立っていた。しかし携帯電話の普及率が100%を超え、端末の販売手法に規制がかかり、官製値下げ(2020年の菅内閣の政策)も加わると、このモデルは崩れていった。通信事業者にとって厳しい時代がやってきたのである。 「いやいや、通信事業者はまだまだもうかっているじゃないか」「もっと競争を促進して料金を下げるべきだ」という声が聞こえてきそうであるが、それについては、本連載の別の回で取り上げたい。