アングル:米政権の長射程兵器攻撃容認、背景に北朝鮮兵参戦とトランプ氏の影
Mike Stone Humeyra Pamuk Matt Spetalnick [ワシントン 21日 ロイター] - バイデン米大統領がウクライナに対して、ロシア領奥深くの標的を米国製長射程兵器で攻撃するのを認めたのは、北朝鮮兵の戦闘参加が直接のきっかけだった。だが5日の米大統領選でトランプ前大統領が勝利したことも、使用容認を急いで決める原因になった。事情に詳しい複数の関係者はこうした見方を示した。 ウクライナのゼレンスキー大統領から、米国供与の地対地ミサイルATACMS(エイタクムス)の使用制限を緩和してほしいと懇願されていたにもかかわらず、バイデン氏は何カ月も首を縦に振らなかった。北大西洋条約機構(NATO)を核兵器保有国ロシアとの全面戦争に突入させかねないと警戒したためだ。 だが、ある米政府高官や他の2人の関係者はロイターに、ロシアが西部クルスク州の戦場に北朝鮮部隊の投入を決めて戦争の段階が大きく切り上がったことで、米国もそれなりの対応が必要になったと語った。 さらに関係者2人によると、米国のウクライナ支援に極めて懐疑的な考えを持つトランプ氏の当選でバイデン政権には、戦況が不利なウクライナへのてこ入れに向けて長射程兵器の使用制限緩和を含めたさまざまな措置を講じなければならないという重圧が高まったという。 トランプ氏は再三、ウクライナに対する米国の軍事支援を批判しており、大統領就任後には武器供与を止めるかもしれないとの懸念が高まっている。 関係者の1人は、今回のバイデン政権の決断は、ウクライナがトランプ次期政権の下で万が一米国の支援を失う場合に備えて、今のうちにウクライナの立場を強固にしておく効果があると説明した。 米国務省の報道官は、バイデン氏が長射程兵器によるロシア領攻撃を容認したかどうかはコメントを避けたが、ロシアは北朝鮮軍の投入によって戦争をエスカレートさせたと指摘した。 <攻撃はクルスク限定か> 米国側は長射程兵器の使用制限緩和について、オースティン国防長官が12日、ウクライナのウメロフ国防相と電話会談した際に伝えた、と関係者が明かした。 米政府高官の1人によると、その翌日にはブリンケン国務長官がブリュッセルでNATOのルッテ事務総長、複数の欧州当局者、ウクライナのシビハ外相にも米国の決定を伝えた。 ウクライナは19日、初めてATACMSを発射して国境からロシア側に約110キロ入った場所にある武器庫を攻撃したと発表している。 バイデン政権は大統領選後、ほかにも新たなウクライナ支援策を打ち出した。具体的にはウクライナ東部におけるロシアの進撃を遅らせるための対人地雷使用許可や、米国の防衛関連企業がウクライナ国内で米国製兵器の修理に従事するのを認め、ウクライナの人的資源を前線により多く投じられるようにしたことなどだ。 長射程兵器の使用制限緩和に関してある米政府高官は、北朝鮮兵力の投入は受け入れられないとのメッセージをロシアと北朝鮮に送るとともに、ウクライナ軍をクルスク州から撃退しようとする彼らの取り組みを阻むのが狙いだと解説した。 この高官は、使用制限緩和が戦争のさらなるエスカレートにつながる危険を認めつつも、ロシアは今のところウクライナ以外の国に対しては何も行動を起こしていないと付け加えた。 ある米議員のスタッフは、使用制限緩和はクルスク州にだけ適用されると考えていると話す。 「ウクライナはクルスク州からウクライナ軍を追い出そうというロシアと北朝鮮の動きを抑え込むためだけに、ロシア領奥深くへの攻撃が認められている」という。