<米大統領選2016>“超保守”クルーズはトランプに勝てるのか?
激しい戦いが続く米大統領選の共和党指名候補争いは、次第に三つ巴の構造が明らかになってきました。ニューハンプシャー、ネバダ両州で連勝した実業家のドナルド・トランプ氏が当面は先行するものの、ブッシュ撤退で「保守本流」票を奪うとみられるマルコ・ルビオ上院議員、保守層の心をがっちりつかんでいるテッド・クルーズ上院議員のいずれかが競り勝っていく可能性も大いにあります。今回は、候補者の中でも最も強硬な保守として知られるクルーズに焦点を当てます。クルーズとはどんな人物でしょうか。また、クルーズの強みと弱点はどこにあるのでしょうか。(上智大学教授・前嶋和弘) 【写真】米二大政党制の岐路(1)ティーパーティがもたらした妥協なき政治
ティーパーティ運動が生んだ“鬼っ子”
クルーズといえば、共和党の指名争いを競う各候補の中でも、最も強硬な保守として、異彩を放っています。ここでいう「保守」とは、3つの「保守」を意味します。残りの2つはあとで説明するとして、まず、一つ目は連邦政府の支出削減を徹底的に訴えることを理想とする「財政保守」です。クルーズは、「財政保守」の筆頭格として議会内で台頭してきた経緯があります。 2010年の上院議員選でのクルーズの当選の際の最大の支持基盤は、「小さな政府」を訴える「財政保守」運動であるティーパーティ運動でした。それもあって、当選後の議会の予算審議では、先輩議員も驚くような強硬な発言を執拗に繰り返してきました。ここ数年、アメリカの予算関連の審議は常に紛糾を続けてきましたが、その中心にいたのがクルーズでした。クルーズはティーパーティ運動が生み出したといっても過言ではありません。 「小さな政府」とは単に財政や予算の問題にとどまりません。第二次大戦後、アメリカでは中央政府である連邦政府が社会問題を様々な法律や規制で解決しようとする「福祉国家化」が進みましたが、連邦政府が国民の生活や権利に介入しようとすること自体を否定的にとらえるのが「小さな政府」を志向する態度です。 「小さな政府」について、わかりやすい例が銃規制への反対です。個人の権利には銃の所有の権利も含まれ、「小さな政府」を望むクルーズにとっては、銃規制は連邦政府の圧政に他なりません。銃の所有は個人の権利と考えている点ではすべての共和党候補者が一致していますが、クルーズの場合はほかの候補以上に、徹頭徹尾、銃規制反対を強く訴えてきました。