「それ、ただのバスじゃない?」富士登山鉄道を断念した山梨県→打ち出した新構想に無理やり感が…
11月18日公開の前回記事では、山梨県が推進する「富士山登山鉄道構想」のコンセプトや技術面の問題を指摘した。そして、今回の記事で構想をめぐる県と地元のすれ違いを深堀すると記したが、山梨県の長崎幸太郎知事は同日、富士吉田市や富士五湖観光連盟など反対派の懸念を受け入れ「鉄路を使わない新しい方式での移動手段に変更する」と表明したのである。計画に拘泥せず、自治体や県民の声を受けて見直しに踏み切ったことは評価したい。だが、前回取り上げたように、山梨県は10月28日に「鉄道敷設は技術的に可能」との中間報告を発表したばかりだった。それがわずか二十日での急転直下の方針転換。一体何があったのか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也) 【この記事の画像を見る】 ● 富士山登山鉄道構想の 初期から「LRT」を強調 富士山登山鉄道構想は長崎知事が、2019年2月の県知事選以来、公約として掲げてきた目玉政策であった。2019年7月に設置した「富士山登山鉄道構想検討会」の検討を経て、富士スバルライン上にLRTを敷設する「富士山登山鉄道構想 ~美しい富士山を後世に残すために~」を2021年2月に策定した。 登山鉄道といえば小田急箱根鉄道線(旧・箱根登山鉄道)や叡山電車を思い浮かべるが、構想の初期から強調されてきたのが「LRT」だ。 LRT(Light Rail Transit)の定義は一義的ではないが、県の資料に「(次世代路面電車)」と付記されているように、宇都宮ライトレールや富山ライトレール(現・富山地方鉄道富山港線)のような形態を前提としており、県の資料やPRには山林を走る超低床車両のイメージ図が必ず添えられていた。 登山鉄道としては前例の無いLRT方式を選んだのは、スバルラインを緊急車両の走行経路として使い続けるためだ。バラスト(砂利)と枕木、レールで構成される普通鉄道の線路と異なり、道路上に線路を敷設する併用軌道は自動車の走行が可能だ。 しかし、最も重視されたのは、LRTが持つ話題性、シンボル性だったのだろう。今の時代、鉄道新設に支持を得ることは容易ではない。ただの登山鉄道ではない、先進的なLRTであるというメッセージが、この構想を支えてきたと言っても過言ではない。ところが検討が進むにつれ、超低床車両の導入は困難であることが分かってきた。