「それ、ただのバスじゃない?」富士登山鉄道を断念した山梨県→打ち出した新構想に無理やり感が…
● バス専用道化とEVバス導入で 十分なのではないか では山梨県が主張するように、軌道化しなければスバルラインの通行規制は不可能なのだろうか。「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」を取りまとめた国土交通省道路局企画課評価室に聞くと、あくまで一般論として、一般道のバス専用道化が法律上、全く不可能というわけではないという。 ARTの法的な位置づけが決まっていないのと同様、既存道路のバス専用化も議論が進んでいないだけの話。レールを敷設するLRTとの比較であればともかく、道路に磁気マーカーを設置すれば「軌道」になり、通行規制が可能になるというなら、それは制度の方がおかしな話だ。 富士スバルラインは生活道路ではなく観光道路であり、環境保全という大義名分がある以上、議論の余地は十分にあるのではないか。軌道法適用は努力するが、通行規制強化は議論しないというのは、公平な態度とは言えない。 もうひとつ気になるのは、ARTの技術的な検討状況が見えてこないことだ。国内では既存のバスをベースとしたBRTの導入例、実証例はあるが、車体サイズや構造がLRTに近いARTをどのように扱うのか、技術基準は明確ではない。 山梨県が導入を目指す燃料電池車両は極寒地での運用実績が少なく、降雪・積雪・凍結時に自動運転システムが磁気マーカーや道路上の白線を認識できるかも実証実験が必要だろう。また技術課題調査検討で指摘された超低床型車両では必要な機器を搭載できないという課題は、同様の構造のARTにも当てはまる可能性がある。 実はスバルラインでは、2020年からEVバスが1日3往復運行しており、4年半が経過した現在まで安全性も問題なく、一度の充電で複数回の往復運転が可能であることが実証されている。軌道法をこねくり回して新技術のARTを導入しなくても、バス専用道化とEVバス導入で十分なのではないだろうか。 山梨県が導入を想定するARTの詳細は不明だが、CRRCの標準的なART車両のサイズは宇都宮ライトレールの車両とほぼ同等なので、座席定員は50~60人といったところか。国産メーカーの「EVモーターズ・ジャパン」が販売するEV観光バスは乗車定員51人であり、着席乗車を前提とする限り輸送力に大差はない。