現代美術家AKI INOMATAが「風の谷のナウシカ」に学ぶ生物多様性の意味
ナウシカから受けた影響とは?
日本が世界に誇るカルチャー「マンガ」を活用して生物多様性の重要さを訴える、WWF(世界自然保護基金)ジャパンの取り組み「コミック・ダイバース(COMIC DIVERSE)」が注目を集めています。マンガ家やマンガ研究者、書店員ら計12人が、生物多様性について描かれたマンガをそれぞれの視点で選び、選んだ理由やマンガへの思いをエッセーにつづったものです。今年6月上旬に特設サイトを公開すると、若年層などから大きな反響が寄せられました。12人の参加者の中から、現代美術家・AKI INOMATAさんに話を聞きました。 人類と生物の関係性を再考する作風で知られるINOMATAさんが、コミック・ダイバースで選んだマンガは、宮崎駿「風の谷のナウシカ」。 1982年からアニメ情報誌「アニメージュ」(徳間書店)で連載された作品で、INOMATAさんは「私たちの世代にとっては、誰でも知っているし、何らかの形で影響を受けている」と語ります。 コロナ禍の間にこの作品を再読した際、「マスクを着用していた日々が、作中で描かれた状況と似ており、驚いた」と語るINOMATAさんは、さらに作品を精読して、「文明が行き過ぎたために自然が破壊され、腐海(作品に登場する菌類の森)が持つ浄化作用が人間にとっては毒になってしまうという作品の世界観」に深く考えさせられました。 WWFが先ごろ発表した「生きている地球レポート2024」では、1970年から2020年までの50年間に、野生生物種の個体群が73%も減少したという深刻な状況が明らかにされました。 まさに生き物が激減する時代を生きてきたINOMATAさん。「生物をしっかり見つめよう。生物とかかわる中から彼らのことをもっと学ぼう」という思いを、自身の作品制作にも反映してきました。
金沢21世紀美術館(金沢市)で開催中の「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」展には、「彫刻のつくりかた」と題するINOMATAさんの作品が展示されています。五つの動物園のビーバーの飼育エリアに角材を設置してもらい、ビーバーがかじった角材を集めて、作品の形に展開したものです。 また、彫刻家に依頼して、ビーバーがかじった角材の形を基に人間大のスケール(現物の角材の3倍)に模刻してもらった作品も展示されています。ビーバーが作ったものを人間がまねて作った作品と言え、「ビーバー」「樹木」「人間」の3者の誰もが作者であり、誰もが作者ではないという奇妙な関係性が生み出されています。 INOMATAさんはコミック・ダイバースで、この作品について、「生きものをちゃんと見よう」というメッセージを込めたと明かしたうえで、「私たちができることは、生物を知ることをやめない、関わることをやめない、生物と関わるなかからもっと学ぶことではないでしょうか。それはまさにナウシカが腐海と共に生きることを決意したことと変わらぬことなのです」とのメッセージを記しています。