ドラフト会議で6人が指名された富士大で「唯一の指名漏れ」となった佐々木大輔。卒業後は社会人へ進み、2年後の捲土重来を期す photograph by Genki Taguchi

　1チームから6人の指名。 　今年のドラフトで富士大がプロに送り出した人数は、プロ志望届の提出が義務付けられている高校、大学では史上最多なのだという。 【現場写真】「太ももエグすぎ…何cmあるの…？」富士大“唯一の指名漏れ”佐々木大輔の「高校時代から10kg以上増加」ムッキムキなフィジカル…大迫力のフルスイングに、大学でコンバートしたショートの守備も写真で見る 　顔ぶれは多士済々だ。 　オリックス1位の麦谷祐介(外野手)を筆頭に広島2位の佐藤柳之介(投手)、ソフトバンク3位の安徳駿(投手)と、半数が上位に名を連ねた。そこに、広島4位の渡邉悠斗(内野手)、巨人育成1位の坂本達也(捕手)、ロッテ育成3位の長島幸佑(投手)と、下位以降も指名ラッシュが続いた。 　ドラフト後も6人は常に“セット”だった。「秋の日本一」を決める明治神宮大会へ向け、チームを紹介する記事では「史上最多指名」の見出しが躍り、同大会出場を決め岩手県庁にも揃って訪問した。

“史上最多”6人指名のウラ側で…「7人目」の胸の内

　スポットライトに照らされた6人を目の当たりにするたびに、佐々木大輔にはあの日の感情が自身の心に去来してくるのだという。 「そういう記事とかを見るたびに、やっぱり悔しかったですけど」 　今年のドラフトで、富士大からは7人がプロ志望届を提出していた。つまり佐々木は、チームでただひとりの“指名漏れ”という憂き目にあった選手ということになる。 　そんな現実を突きつけられれば誰だって落胆はするし、ネガティブにもなる。だからこそ佐々木は、そんな自分を押し殺すかのようにこう前向きに結ぶのである。 「でも、頑張る糧にはなっています」 　プロにはなれなかった。しかし、佐々木のキャリアを辿れば、「プロを現実的に目指せる選手」になれただけ大きな進歩だった。なにせ彼は、一関学院を卒業するのと同時に野球を辞め、就職しようとしていたのである。 　その佐々木を踏み止まらせたのが、チームを指揮する高橋滋の説得。そして、富士大の監督である安田慎太郎の慧眼にあった。 　安田が「もしかしたら」と抱いた佐々木の可能性について、このように述べる。 「高校時代の佐々木は外野だったんです。でも、肩が強く、スローイングもよかったので『ショートにしたら、プロに行けるかもしれない』と思ったんですね」 　例年、ドラフトではショートの選手が多く指名される傾向にある。それは、フィールディングやキャッチングの技術はもとより、守備範囲の広さや肩の強さが求められるため汎用性が高く、他の内野や外野へ移ってもすぐに順応できる、「替えが利くポジション」だからである。 　安田にもその思惑があったからこそ、「ショートができるという印象は、プロへのアピールになる」と睨んだのだ。 　なにより安田は、プロを強く意識する。 　決して大げさではなく、富士大の門を叩いた選手全員に「プロを目指せ」と宣言しているほどだという。安田が理由を語る。 「『お前なんか無理だよ』とこちらが蓋をしてしまったら、選手の脳内でも『行けないんだな』と決めつけちゃうんですよ。そうなると成長できるものもできなくなってしまうんで、入学した段階で全員にプロを前提とした指導をします。 　麦谷のように最初からプロを強く意識している選手には、『メジャーリーグを目指せ』と言っているくらいなんで。そうやって高い目標を掲げさせた上で、その都度、足りない要素を提示して『このままだとプロは厳しいぞ』と、叱咤しながら指導していくというスタンスですね」