経済成長の期待は素直に喜べるのか?アフリカに今なお残る植民地支配の記憶
アフリカの現状と未来について、その光り輝く面、あるいは暗く沈む面の両方に目を向けるべきだと述べてきた。そして、21世紀の今と同様に、過去にもアフリカの将来性が大きく期待された時期があり、その期待は、アフリカのかかえる様々な問題を見落としたうえでの期待であり、以後の経緯のなかで裏切られていったことを紹介した。同じような間違いは、今後繰り返されてはならないだろう。 そこで重要となるのは、成長率の高さなど表面的な状況だけを見るのではなく、アフリカの国々の政治や経済はどのように形成され、それぞれがどのような特徴をもつようになったのかを深く理解することだろう。こうした理解のために、今回は、そもそもアフリカの国々がどのような歴史を経てきたのかを、さかのぼってみよう。そして、その前に、何度か触れてきた、過去アフリカの将来が期待された状況とはどのようなものだったのか、その期待はどのように裏切られたのか、ということを見ておきたい。(解説:京都大学大学院および神戸大学大学院教授 高橋基樹) ※このコラムでは特にサハラ以南のアフリカに注目している。
植民地から独立後の1961年から74年にも、著しい経済成長が見られたアフリカ
図1はサハラ以南のアフリカ全体の、過去の域内総生産(GDP)の成長率(経済成長率)と人口増加率を示したものである。アフリカ諸国が独立した1960年代初頭から、2015年までの期間の各年について2つの率の推移を見た。 経済成長率と人口増加率を取り上げたのは次のような理由による。成長率・増加率は年ごとにそれぞれの数値が変化するスピードを示している。だから、経済(生産・所得)が人口の変化をスピードで上回ることは、所得を人口で割った値、すなわち一人当たりの平均所得が上昇していることを意味し、下回っていることは平均所得が低下していることを意味する。それは、経済的に国民が豊かになり、あるいは貧しくなっていることを、一面から示している。 この図1においては、まずアフリカの経済成長率が激しく上下動しており、アフリカの経済は非常に不安定であることが分かる。そして、大きく言うと80年代から90年代までの低迷期をはさんで、その前と後の期間で比較的成長率が高かったことが見て取れるだろう。 一方、人口増加率はほぼ一定で、各年2%台の半ばから3%に近い範囲を推移している。この人口増加率は世界各地域のなかで最も高い。この高い一人当たりの人口増加率を経済成長率が超えない限り、アフリカの平均所得は向上しないのである。 前回、アフリカの将来が期待されたと述べたのは、80年代以前の時期、特に独立前後から1973ー74年の第1次石油ショックまでの時期のことだった。図1を見るとこの時期はたしかに高い成長率である年が多いように見える。1961年から74年までの14年間の年平均経済成長率は約5.0%である。一方、2015年までの14年間の平均成長率は約5.2%である。独立直後の時期のアフリカは、最近とほとんど変わらない高度成長を経験していたわけである。この時代はまさに、アフリカにとって希望の時代だった。 ここでの重要な問題は、アフリカは独立当初高い経済成長率を記録しながら、1970年代の後半からそれが下落しはじめ、80年代から90年代まで長く低迷を続けたことである。この間、経済成長率が人口増加率を下回り、平均所得が低下した年が14年もあり、まさにアフリカは全体として「窮乏化」を経験したと言ってよい。果たして、最近までアフリカが経験してきた、比較的高い経済成長の後に、同じような低迷が待ってはいないのだろうか。それは、アフリカの内外で、貧困削減を目指す人びと、ビジネスチャンスを探る人びとにとって大変気にかかることだろう。 そのことを考えるためには、なぜ、独立後上下動は著しいものの平均的に高い成長を遂げたアフリカ経済が、80年代から90年代まで深刻な低迷を経験したのか、ということを理解しておく必要がある。そして、その理解のためには、アフリカはどこから来て、どのような経緯を経て現在に至ったのかを知る必要がある。