家族を失ったMが命がけで伝える戦争の悲惨さ。知らなくても生きていける、けれど知ってほしい|映画『ガザからの報告』劇場公開
2部に分かれた長い本編が、人々の生活を壊し続けいつまでも終わらない現状を一層訴えかける
この作品は2部に分かれています。途中休憩が入るくらい長い作品ですが、食い入るように観てしまうのは、作品が同じ人間を描いているからでしょう。 私たち日本人が日々暮らしている生活とかけ離れたいつ死ぬかわからない恐怖、飢えと将来の希望のない生活が目の前に容赦なく見せつけられます。監督の言うように、一人ひとりの人間を描いているので、遠くの世界の出来事と思えないのです。 ■第⼀部『ある家族の25年』(120分) 農場を経営していたエルアクラ家が故郷を追われ、たどり着いたガザ最⼤の難⺠キャンプ「ジャバリア」での暮らしを中心に描いています。⼟井監督はこの家に住み込みで約半年間取材を行いました。イスラエル軍の撤退、解放、パレスチナ⾃治政府の誕⽣。25年の歳⽉をかけエクアクラ家の⼈々の⼈⽣をみつめた本作は、「ガザのパレスチナ⼈」と⼀括りにされる彼らが私たちと“同じ⼈間”であることを伝えています。 ■第⼆部『⺠衆とハマス』(85分) イスラエル国家を認めず、全パレスチナの解放、難⺠の帰還を掲げるハマス。慈善事業とパレスチナ解放をめざす武装闘争の両⾯で⺠衆の⽀持を拡げ、ガザ地区を支配するようになりますが、イスラエルの封鎖政策とハマスの悪政で⼈びとはかつてない貧困に喘ぐことになります。 ハマスの指導者やスタッフ、戦闘員、そしてガザ住⺠へのインタビューを重ね、ハマスが⺠衆から乖離していったプロセスを追い、今のガザの惨状の根源を浮かび上がらせます。
戦争とは? この映画からその意味を読みとって家族での対話のきっかけにしてほしい
戦争とはいったい何なのか、この映画を観るとその答えがあるように感じます。戦争とは人々の暮らしを破壊し、人間らしく生きることを奪うものです。ガザの人々は今、医薬品や食料、着るものなどの物資が入ってこないため、ひどい暮らしをしています。 これから冬がやってくるのに、着の身着のままで、防寒のための衣類はほぼありません。病院も破壊され、がん患者の治療もできない状況です。すし詰めのテント生活に、感染症が広がり、攻撃での死者だけでなく、栄養不良や薬不足のため、病気で死んでいく人々も多くいます。 最低限の生活もできず、教育もまともに受けられないのです。為政者に裏切られ、希望をなくした人たちの目は空虚で、戦争の虚しさを見る人に訴えかけます。 遠い国に住む私たちに何ができるのでしょう。何もできないからとあきらめてはいけないと思います。 まずは知ること、同じ人間として自分事として考えること。そして、周囲の人たちに伝えていくことで少しずつ戦争の恐ろしさを伝え、絶対に戦争をしないという固い決意をもち、日本が戦争に向かわないようにすることではないでしょうか。 子育て世代であるHugKum読者のみなさんから、戦争の悲惨さを知ってほしいと思います。そしてお子さんともわかる範囲で戦争について話をしてください。大切な子どもの未来を守ることができるのは、みなさんだと思います。 『ガザからの報告』 10月26日(土)よりKʼs cinemaほか全国順次公開 監督・撮影・編集・製作:⼟井敏邦/整⾳:川久保直貴/デザイン:野⽥雅也、尾尻弘⼀/ウェブ広報:ハディ・ハーニ/配給協⼒・宣伝 リガード ドキュメンタリー/2024/⽇本/205分/Blu-ray/©️DOI Toshikuni 2024
取材/原佐知子