24年に解明された歴史上の謎、カスパー・ハウザーの「消えた大公子」説は否定
北欧サガの「井戸男」の謎を解明
これとは別に、研究者はノルウェーの城の井戸から見つかった遺骨の身元について、800年前の北欧語文献の一節と関連づけることに成功した。 実在した国王スベレ・シグルツソンの物語「スベリス・サガ」には、侵略軍が1197年、死者の遺体をスベレスボルグ城の井戸に投げ込んだという描写がある。水供給を汚染させる狙いだった可能性が高い。 科学者のチームはこのほど、1938年に城の井戸から見つかった遺骨を分析。放射性炭素年代測定法を駆使し、遺体の年代を約900年前と特定した。歯のサンプルの遺伝子解析を行った結果、「井戸男」が中間的な肌の色に青い目を持ち、明るい茶髪もしくは金髪だったことが判明した。おまけに、男性の遺伝的特徴を地元住民にたどることはできなかった。 ノルウェー科学技術大学博物館の自然史学部で教授を務める論文共著者、マイケル・D・マーティン氏は「我々にとって最大の驚きは、井戸男が地元出身ではなく、ノルウェー南部の特定の地域にルーツを持っていた点だ。これは包囲軍が自軍の死者の一人を井戸に投げ込んだことを示唆している」と指摘した。
「消えた大公子」説を否定
ここ20年近くの分子遺伝学の発展を手掛かりに、研究者は19世紀半ばのドイツにどこからともなく現れたとおぼしい「消えた大公子」を巡る長年の謎を掘り下げた。 「カスパー・ハウザー」の名を持つ謎めいた男を巡っては、200年にわたり、実はドイツの王族ではないかとの臆測が取り沙汰されていた。1828年5月、身分証を持たずニュルンベルクをうろついているところを発見されたハウザー(当時16)は、ほとんど質問に受け答えできない状態だった。 ハウザーが現在のドイツ南西部を拠点としていたバーデン王家からさらわれた王子だったとの説は、燎原(りょうげん)の火のごとく広まった。 ハウザーの所持品から採取した遺伝データを分析した研究は複数あるものの、結果は相反する内容で、答えが出ない状況だった。 研究者は今年、ハウザーの毛髪サンプルを新たに分析し、母系を伝わるミトコンドリアDNAがバーデン家のものと一致しないことを突き止めた。 王族説が否定されたことで一つの謎が解けた可能性はあるが、代わって別の謎が浮上した。この男性は一体誰だったのか。墓石に書かれているように、ハウザーは「彼が生きた時代の謎」であり続けている。