おむつとシーツが真っ赤に染まって血の海に…自宅での最期を希望していた最愛の夫が、まさかの「病院死」…妻が気づけなかった「意外な落とし穴」
妻に足りなかった準備とは…
妻は良一さんの死後、「夫を自宅で逝かしてあげたいと、何年もずっと頑張ってきたのに、気が動転して救急車を呼んでしまった。そのあとも血の広がったシーツの中で悶絶する夫の姿をみて、自宅で看続けることが怖くなってしまった。でも、もう少し頑張ってあげればよかった。はやく夫に謝りたい」と、悔やみきれない後悔を口にした。 「病院に搬送後、奧さんが自宅に戻す決断ができなかったのも無理からぬ話です。日中はヘルパーが、週末には息子さんたちが手伝いに来てくれますが、奥さんだけは夜通しで一緒にいる立場です。24時間一緒にいる介護のキーパーソンにとっては、こうした体調の急変は不安でしかありません。 この不安を乗り越えるためには、人生の最期を一緒になって並走してくれる医療従事者に、事前に自身の病気によって今後、どんな事が起こりうるのか、その時どうすればいいのかを聞いておき、その時がきても、慌てず事前に聞いた通りに対処できるように準備をすると、こうした事態を避けることもしやすくなると思います。 例えばこのケースのように大腸がんの末期であれば、こうした下血は想定の範囲内です。訪問看護師に連絡すれば、訪問医が駆けつけて、病院に搬送された時と同じようなペインコントロールをしてくれたはずです」 シーツが真っ赤に染まるほどの下血でも、予め在宅でも対処できると知っていれば気が動転しにくいというわけだ。
人生の最期。ギリギリの状態が続いていた
一方で、死に対する「悟り」も大切な準備のようだ。このケースで問われたのは「大切な人の死と向き合う覚悟」である――。 山下茂雄さん(仮名・享年82)は、長くALS(筋萎縮性側索硬化症)と戦っており、気管切開をして人工呼吸器を装着している状態だった。意思疎通は難しく、それでも夫を愛してやまない妻(70歳)は、ヘルパーを入れながら在宅で面倒を見続けていた。 いつ呼吸が止まっても不思議ではない状況で、実際、すでに訪問入浴中に2回呼吸が止まっていたという。蘇生はできたものの、それでも奥さんは「夫の日常」を諦めておらず、「主人は湯舟に浸かることが好きだったから」と、末期がんや難病患者でもお風呂にいれる技術を持っている武藤氏に継続して訪問入浴を依頼。「次に呼吸が止まったとき、それが天寿」であることを理解したうえで、週に1回、茂雄さんをお風呂にいれて、自身も一緒に身体を拭いていた。 「入浴自体がかなりギリギリで、お風呂の温度、浴槽へ浸かって頂くためのポジショニング変化、目に入る蛍光灯の光など、ちょっとの刺激で呼吸停止が起きてしまう状態でした。訪問医もケアマネもそこは奥さんと十分に話し合っていて、私も『次に呼吸が止まったら看取りに入ってください』と、指示を受けていました」