塩分我慢からの「油多めラーメン」爆食い…不健康な人が陥りがちな「シンプルな間違い」
わたしたちはいつまで金銭や時間など限りある「価値」を奪い合うのか。ベストセラー『世界は経営でできている』では、気鋭の経営学者が人生にころがる「経営の失敗」をユーモラスに語ります。 【写真】人生で「成功する人」と「失敗する人」の大きな違い ※本記事は岩尾俊兵『世界は経営でできている』から抜粋・編集したものです。 醬油に刺身や漬物をひたひたに浸して食べる人がいる(実は私もその一人だった)。 そうした人は醬油の味をつけた料理を食べたいのだろうか、それとも本当は醬油を飲みたいのだろうか。 ここで「いや、刺身も漬物も、本当は醬油を飲むための緩衝材なんだ」と主張したい人もいるだろう(健康診断で高血圧の項目が問題になるまでは私もその一人だった)。 それならば次の質問はどうだろう。 醬油が好きだという人は醬油の味を楽しみたいのだろうか、それとも大量の塩分を体内に取り込みたいのだろうか。
高血圧と偏見:欲しいのは塩分か、それとも味か
こう質問されると、ほとんどの人は「醬油の味を楽しみたい」と答えるのではないだろうか。 現代は一昔前の麦茶に塩を入れていた時代とは違って、塩分が足りない時代ではない。塩分は放っておいても摂りすぎになる時代だ。 と、ここで「さては減塩醬油を売り込む気だな。醬油メーカーの回し者/社外取締役狙いに違いない」と思った方は九州醬油よりも甘い。ご安心いただきたい。私自身どちらかといえば減塩でない醬油の方が好きである。 減塩醬油を用いなくても醬油の味を楽しみつつ塩分摂取を抑える方法はある。 たとえば醬油を料理に刷毛で塗ったり、スプレーで散布したりするなどだ。高級寿司店で使われる調理法である。この方法なら醬油の味はそのままで醬油の使用量を抑えられる。 そもそも醬油は舌の表面にある味蕾と接して初めて味覚として意味をなす。だから味蕾と接しないほどの(ひたひたの)大量の醬油は「醬油の味を楽しむ」という目的に対して過大である。これでは無駄に塩分を摂取し無駄に健康を害するだけだ。 といって今度は塩分が健康にもたらす悪影響を心配して、極端に塩分を控えてしまう人もいる。あるいは糖質制限/ロカボダイエットの流行に乗って、ある日から突然に糖分や炭水化物をほとんど断ってしまう人がいる。 しかしこれまで日常的に摂っていた栄養素の摂取量を短期間で大幅に減らしてしまうと、禁断症状が出てしまってその栄養素をより欲するようになる。 たとえば一週間塩分と糖分を我慢しすぎた結果として反動で無性にラーメンが食べたくなり「味濃いめ、脂多め、野菜少なめ、チャーシュー二枚追加、麺特盛」を注文してしまったりする。それでは結局のところ一週間分の塩分と糖分を一日にまとめただけだ。ついでに余計な脂肪分まで取り込む結果になっている。 いや一週間分を一日で食べただけならまだいい。ダイエットからのドカ食いは血糖値と血圧の急上昇をもたらし血管に大きな負担をかける。こうしてボロボロになった血管が、次の病気を引き起こす。 これでは逆効果だ。手段が目的を邪魔している。 これらの例から分かるように、経営の失敗により健康は容易に損なわれる。部分的な合理性を追求して全体的な合理性がない行動をとったり、短期的な利益を優先して長期的な損失をこうむったりといったことが頻繁にみられるのだ。 つづく「なぜ多くの人は「手段と目的」を履き違えるのか「よくある悲惨な実態」」では、睡眠や食事のシーンでよく見られる「部分的・短期的最適行動」をエピソードとともに深掘りする。
現代新書編集部