2015年の日本政治 ─ 展望と課題 ─ 内山融・東京大学大学院教授
国政に目を戻すと、本年の通常国会では、集団的自衛権に関わる安全保障法制の整備が進められる予定である。また、安倍首相が「歴史的なチャレンジ」と呼ぶ憲法改正についても動きがあるかもしれない。これらの案件はいずれも国民的議論が必要なものであるが、こうした方向について先の衆院選で国民の信託がなされたといえるのか、少々疑問が残る(前掲拙稿参照)。 選挙、特に衆院総選挙において、勝利した側は「有権者の信認を受けた」と主張する。しかし、国民が政権に何を具体的に信託したかは必ずしも自明ではないし、白紙委任をしたわけでもない。その意味で、選挙が済んだ後も、国民は政権の運営に注意を払い続ける必要がある。選挙は、民意を表明する手段として枢要なものであるが、その唯一の手段ではない。そうした政治的コミュニケーションは、選挙以外でも日常的に実行しうるし、またそうすべきである。ドイツの社会哲学者ハーバーマスのことばを借りれば、政治的な熟議を行う回路は、議会と選挙に限定されたものではなく、市民社会にも開かれたものである。我々自身が、たとえ無力感にさいなまれても諦めることなく、政治への関心と関与を持続すること、これが常に変わらぬ民主政治の課題である。 ------------- 内山 融(うちやま ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など。