『ソードアート・オンライン』がクリアされた日に追いついて――2024年11月のバーチャル業界はいま
■11月7日は『ソードアート・オンライン』がクリアされた日 2024年11月7日 14時55分ごろ、VRMMORPG『ソードアート・オンライン』がクリアされた。2022年より仮想世界に囚われていたおよそ6,000人のプレイヤーが目を覚まし、ゲームより解放された――。 【画像】hololive DEV_ISからデビューした新ユニット・FLOW GLOWのメンバーたち 無論、これはフィクションにおけるニュース速報。『ソードアート・オンライン』最初のシナリオ、アインクラッド編が終了した時系列に現実が追いついた、というトピックである。この日には、事件解決にちょうどリンクするようにアニメ版が放映されたほか、ニュース速報風の映像、さらにはオフィシャルが制作した「ゆっくり動画」まで公開されるなど、セレモニー的なキャンペーンが実施された。 VRがテーマのフィクションの中でも、本作はいまや世界的な代表作となった。一方、多くの「物語の未来」が完璧には的中していないように、作中に登場する「フルダイブ型VR」はまだ実現していない。現実世界の2024年現在、実現しているのは有線接続のハイエンドVRと、一定の性能制限があるワイヤレスVR、『Apple Vision Pro』が見せる初期段階の空間コンピューティングなどだ。 ■2024年の仮想世界『VRChat』の出来事 未だ実現しないフルダイブVRに対して、仮想世界はVRMMOではなく、ソーシャルVRから少しずつ認知度が向上し、実際に訪れる人が現れている。そして、『ソードアート・オンライン』の世界でどれほど類似した存在するかは不明だが、2024年現在は動画配信サイトなどで活動しているバーチャルタレントからの注目が向上している。 11月4日に『VRChat』で初配信を行ったホロライブプロダクションのVTuber・宝鐘マリンは、hololive DEV_ISのグループ・ReGLOSSに所属する火威青(ひおどし あお)とともにコラボ配信を実施した。火威青の視点から、派生キャラクター・クマリンを演じる宝鐘マリンを見る、ほのぼのとした動物番組的な内容だ。企画としては、モーションキャプチャースタジオを使うにはやや小粒であり、ある種『VRChat』ならではの配信と言えるだろう。3D配信環境としての『VRChat』の機動力を感じ取れる事例だ。 VRヘッドセット側も、直近は『VRChat』需要を大なり小なり意識しているように見える。エントリーモデルとして人気を得た『PICO 4』などを動かす「PICO OS」最新アップデートでは、専用ボディトラッキングデバイス「PICO Motion Tracker」の精度が向上。座りや横になる動きに強くなったほか、長時間の使用でもスリープモードに入らなくなった。この改善の訴求先はVR内での寝落ち、俗に「VR睡眠」と呼ばれる行為・文化だ。公式リリースにて「VRChatでの寝落ち(V眠)」と明記しているところからも、『VRChat』のヘビーユーザーにリーチさせたい思惑がうかがえる。 ■hololive DEV_ISからは一年ぶりに新ユニットがデビュー 上記で取り上げた火威青の所属ユニット・ReGLOSSが属する、hololive DEV_ISからは、5人組の新ユニット・FLOW GLOWがデビューした。ReGLOSSデビューからおよそ1年ぶりの新規展開だ。 王道ボーカルユニットの色が強かったReGLOSSに対し、FLOW GLOWはラップやDJなどヒップホップの要素を取り入れるなど、全体的にストリート色が強い。ユニット楽曲「FG ROADSTER」はもちろん、提示されているバックストーリー・設定などもその傾向が見られる。「従来のVTuberの枠組みを超えた『成長』『挑戦』をテーマに精力的なユニット活動を行っていく」と打ち出されたhololive DEV_ISだが、その姿勢がより鮮明になってきたようにも見受けられる。 新しいバーチャルタレント向け配信プラットフォームの話題も見られる。NTTコノキューが提供するアバターコミュニケーションアプリ『Stellamy』が、バーチャルライブ配信&コミュニティアプリとしてリニューアルした。テキストや画像の投稿ができるコミュニティ機能と、アバターを介した配信機能をあわせ持つアプリとなり、バーチャルな配信者が活動する方向に最適化されたようで、リニューアルに合わせて実に230名以上のバーチャル配信者が活動を始めたとのこと。初動の参加規模としてはなかなかだ。 同じくNTTコノキューは、バーチャルキャラクター特化型VRコンテンツサービス『Atchmo』をリリースした。これはSteamで無料入手できるアプリであり、同社運営のバーチャルアーティスト・Tacitlyを中心に、様々なバーチャルアーティストのVRライブコンテンツが配信されている。このうち、リリース時点では「Tacitly」のライブは無料体験でき、ほかは有料コンテンツとなっている。 筆者も軽く体験してみたが、2024年3月にサービスを終了した『VARK』などの先行サービスなどと比べて新奇さは少ないものの、ライブ演出、立体的な音響、カメラ視点変更、スクショ機能など、「あるとうれしいポイント」はしっかり押さえてあり、悪くないものだと感じた。プレスリリースによれば、秋葉原駅にあるXR体験施設『XR BASE produced by NTT QONOQ』にて先行提供されたものだそうで、運用実績があるものとあれば信頼性は十分だろう。 NTTコノキューはこれまでも継続的にXR関連のコンテンツを展開しており、バーチャルタレントとの連携も息が長い方だ。とはいえ、一気に大きな展開を2つ仕掛けてきた思惑は気になるところ。引き続き注視していきたい。
浅田カズラ