韓国旅客機事故、司令塔が「空席」だらけの異常事態…副首相が1人4役で綱渡りの対応
【ソウル=桜井紀雄】韓国南西部の務安(ムアン)国際空港で179人が死亡した旅客機事故で、事故の対応に当たる本来の政府の司令塔役の大半が「空席」という異常事態となっている。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「非常戒厳」宣布を受けて尹氏と首相が弾劾訴追され、担当閣僚も辞任したからだ。大統領と首相の権限を代行する崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相が1人4役をこなし、事態収拾に奔走する綱渡りの対応が続いている。 崔氏は30日、旅客機事故を受けたソウルでの「中央災難安全対策本部」会議で、全ての航空機の運用に関して安全点検を実施するよう指示した。崔氏は29日の事故後に即座に対策本部を立ち上げた上で、現地入りし、次々指示を飛ばしてきた。30日には国会議長と会談して協力を求めたり、現地の弔問所を訪れたりと八面六臂(ろっぴ)の働きぶりを見せている。 大災害や大事故が起きると、消防や警察を管轄する行政安全相が対策本部を設置する規定になっている。省庁横断の対応を必要とする大規模事故の場合は、首相が本部長として陣頭指揮を執る。 だが、尹氏の側近として知られた李祥敏(イ・サンミン)行政安全相は、尹氏の戒厳宣布後に辞任。尹氏に続き、韓悳洙(ハン・ドクス)首相も27日に国会で野党主導の弾劾訴追案が可決され、職務が停止された。本来は本部を指揮するはずの2トップが空席となった。 さらに事故の捜査を指揮すべき警察庁長官も内乱容疑で逮捕。事故現場の捜索などを支援する軍は金竜顕(キム・ヨンヒョン)前国防相が起訴され、各省庁の次官らが代行を務めている状況だ。 2014年に高校生ら300人以上が犠牲となった旅客船セウォル号事故では、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領が事故当日に約7時間動静が不明だったことに批判が集中。退陣に至る要因の一つとなった。 今回は韓国の航空機事故で最悪の被害となっただけに、弾劾訴追の連発で行政の機能低下をもたらした野党側にも批判の矛先が向けられている。