「空海の教え」が、インバウンド客を招く! 高野山のあるお寺に外国人が集まるワケ
インバウンド市場はますます拡大し、そのうねりは地方都市から村や集落にまで及んでいる。そんななか、ヨーロッパからの観光客に根強い人気を集めている地域の1つが、空海が開いた真言宗の聖地・和歌山県高野山町だ。 一体どんなポイントが、外国人を引き寄せているのか? 同地における「インバウンドのパイオニア」ともいわれる恵光院宿坊を取り仕切る近藤説秀住職と、執事を務める深山法宏僧侶に話を聞いた。
「英語で修行」が付加価値に
──外国人観光客が増えはじめたのは、いつ頃ですか? 住職 大きな契機は、2004年に高野山がユネスコ世界文化遺産に登録されたことです。また、2009年には魅力的な旅行先を紹介する『ミシュラングリーン・ガイド』に高野山が掲載され、外国人観光客がさらに増えました。その後も海外のメディアで紹介されるなどして、コロナ禍前の2019年には外国人宿泊者数が1万5000人を突破しました。 ──外国人観光客への接客における一番の難関は、他言語対応です。どのように対応していますか? 住職 当院で働く僧侶や従業員には、英語を喋れる人が多いんです。実際のお寺に宿泊でき、英語を使って修行体験(瞑想や勤行など)ができる点は、インバウンドの旅行者にとって、他の宿坊にはない大きな魅力になっているのだと思います。 求人を出すと「英語が話せる環境で働きたい」と考える方が応募してくれますが、すべての人がはじめから流暢な英語を話せるわけではありません。接客については可能な限りマニュアル化し、ある程度になったらテストを実施して、英語が不得意でも最低限のラインを保てるようにしています。 もちろんそれだけでは足りませんから、それぞれがお客様との交流のなかで英語力を鍛えています。僧侶も従業員も、言語対応については全員が努力しています。 深山 私の場合は、オーストラリアでワーキングホリデーの経験があり、英語が話せました。お坊さんになるつもりはなかったのですが、縁あって働くうちに真言宗の教えに感銘を受けるようになり、出家しました。 マニュアルや接客方法は先輩たちから引き継いだものです。その内容を日々ブラッシュアップさせながら、お客様をがっかりさせることのないよう心掛けています。 住職 当院には、深山のようにお寺とは関わりのなかった人が従業員として働きだしてそのまま出家するケースが多くあります。