「自分にハンデがあるとは思わなかった」──「耳の聞こえないデザイナー」がつなぐ、ろうの世界と聴の世界
今年の「デジタルの日」のロゴをデザインした岩田直樹さん(26)は、生まれつき両耳が聞こえない。聴覚に障害のある人には、聞こえない人、聞こえにくい人、成長してから聴力を失った人など、さまざまな背景がある。それは、その人の母語は何か、アイデンティティーはどこにあるかという問題につながる。岩田さんがデザイナーとして活躍するまでの歩みを取材した。(取材・文:長瀬千雅/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ろう者というアイデンティティー
10月10日、デジタル庁発足を機に創設された「デジタルの日」のオンラインイベントが開かれた。登壇した牧島かれんデジタル大臣の左胸に、ブルーの四角いロゴマーク。デザインしたのは岩田直樹さんだ。 「『誰一人取り残さない、どんな人にもやさしいデジタル』がテーマだったので、やわらかく、親しみやすいイメージになるようにつくっていきました」 茨城県の広告会社で働きながら、副業でフリーランスとしても活動する。 「社長のおかげです。大学生のときに地域のイベントで知り合って、デザイナーを探していると聞いて面談して働くことになったんですが、ぼくのことをわかってくれるし、応援してくれる。ぼくは運がいいんです」 岩田さんは聴力レベル100デシベルの重度難聴だ。補聴器をつけて唇を読んでも、完全にはわからない。就職するとき社長は、電話応対やクライアントとの打ち合わせはほかの社員に任せ、岩田さんはデザインに集中する体制を提案してくれた。
ファーストコンタクトはオンライン会議ツールのZoomだった。画面越しに互いに顔を見ながら、チャットで会話する。リモート筆談だ。あまりにも自然にやりとりができるので、ここに障害(バリア)などないように思ってしまう。 インタビューは聴者の手話通訳を介して行った。 職場や日常生活で聴覚障害者への情報保障がない場面はまだまだ多いが、デジタル化の進展もあって、以前と比べればかなり状況は変わってきた。では、手話か筆談を用意すれば、聞こえない人を聞こえる人と同じに扱っていいのかといえば、それは一面的すぎる。 「日本語と手話は違います。言葉そのものが違うんです。手話はコミュニケーションの一部と思われているけれど、方法ではなくて、言葉としてまったく違います」 この「手話」は「日本手話」である。日本手話はそれ自体が独立した言語とされていて、日本語とは語彙も語順も違う。 東京パラリンピックの開・閉会式のテレビ中継で「表情豊かな」手話通訳が話題になったが、あの手話はろうの通訳者による日本手話だ。眉を上げたり口をすぼめたりといった「表情」に見えるものは手話の一部で、規則性がある。