南こうせつ「32歳で始めた野外イベント『サマーピクニック』、75歳の今回が正真正銘のラスト。開催を望むファンからの署名で決心がついて」
ところが当日、どうも雲行きがあやしい。まもなくドシャ降りになり、会場の近くで雷がゴロゴロ鳴っていたかと思うとドカーンと落ちた。電源は使えないしコンサートは中止です。いったんお客さんには避難していただき、雨風が収まったところで僕らは宿舎に戻ろうと車に乗り込みました。 みんなをがっかりさせてしまった――やりきれない気持ちを抱えてぼんやり窓の外を眺めていたら、会場に残っている500人だか1000人だかの人が見えたんです。僕の名前を呼んで、手を突き上げていて。 グッと込み上げてくるものがありました。急遽Uターン(笑)。「本当にありがとう!」とアコースティックギターだけで数曲歌ったところで調子に乗ってしまったんですね。うっかり余計なことを口にしました。「来年も開催します」。そして「九州で10年続けますから」って。(笑) 宣言通り九州の各地で10年、その後はその時々の場所でサマーピクニックを開催してきました。いくつもの場面が蘇ります。88年の大分では、ジュリー(沢田研二さん)が参加してくれました。それまでフォークソング一辺倒の演目でしたが、ジャンルの枠組みを超えて盛り上がったという意味で革命的でしたね。 福岡で開催した10回目のサマーピクニックも印象深いです。節目の回でもあって、たくさんのアーティストが参加してくれました。拓郎さん、松山千春さん、井上陽水さん、イルカさん、チャゲ&飛鳥、風、急遽結成のかぐや姫……と豪華でしょう? 3万3000枚のチケットは即日完売。 でもチケットを買えなかった人たちも当日続々と集まってくれたので、柵を外してみんなで楽しむことにしました。白々と夜が明けてゆくなか、ステージから見た光景は目に焼きついています。みんな笑顔とエネルギーに満ち溢れていて、生きている喜びが全身から放たれているとでも言うのかなあ。嬉しかったなあ。 口幅ったいことを言うようですが、僕が歌手になったのは、何かしら神様から使命を与えられたからだと思っています。それで有名になった以上、誰かを笑顔にすることが自分の使命だと信じて走り続けてきました。